選挙で数々の名言を生み出した「ギャップ法」

 最後にもうひとつ。AKB総選挙の伝家の宝刀とも言えるべき技術。「ギャップ法」を覚えておいてください。今年5位だった柏木由紀さん

「この総選挙には、弱い自分を強くしてくれる魔法がある」

 これは、正反対のコトバを入れることで強いコトバをつくることができる技術です。スピーチの意味上では

「この総選挙には、自分を強くしてくれる魔法がある」

 と言えば伝わるのですが、あえて「強く」の反対のコトバである「弱い」を入れているのです。すると、ギャップがあるぶん、とてもスピーチが強く伝わる。この伝え方の技術は過去のAKBの名言にもよく使われています。前田敦子さんの伝説的な名言

のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください」

「私」という個人に対して反対の、「AKB」という団体を入れたことで、名言になりました。去年の、AKBを卒業すると宣言したときの高橋みなみさんの名言。

「努力は報われない。……でも努力している人に報われてほしい

「報われない」に対して反対の「報われてほしい」と入れたことで、とても胸に響くコトバになっています。今回のアメリカ大統領選でヒラリー・クリントン候補もこの技術を使っています。

あなたが成功しなければ、アメリカも成功しない」

「あなた」という個人に対して、「アメリカ」という国を言ったことで、強いコトバになっています。この「ギャップ法」は、私たちの日常生活でも使うことができます。たとえば、

「あなたが好き」

 とそのまま言うのではなく、「好き」と反対のコトバ「嫌い」を入れるのです。

嫌いになりたいのに、あなたが好き

 こちらのほうが、言われたほうは、どきっとしますよね。
あまり知られていませんが、実はこのように伝え方には技術があるのです。知っていれば、すぐに誰でも使えてしまうものです。

 今回のAKB総選挙でも、伝え方の技術がたくさん使われていました。彼女たちのスピーチは毎年が総選挙なので、磨かれています。

「聴衆と徹底的に向き合うこと」と、「伝え方の技術を身につける」こと。アイドルとは仕事自体はまったく違うかもしれませんがが、もしかしたら参議院選挙の先生方も、そして私たちも学ぶことがあるのではないでしょうか。

 これらの「伝え方の技術」は、知っているか知らないかだけで、まったく同じ内容でも、スピーチの印象が激変します。みなさんも覚えておくと、いざスピーチをしないといけないときの、助けになるかもしれません。

佐々木圭一(ささき・けいいち)
コピーライター/作詞家/上智大学非常勤講師 上智大学大学院を卒業後、97年大手広告会社に入社。後に伝説のクリエーター、リー・クロウのもと米国で2年間インターナショナルな仕事に従事。日本人 初、米国の広告賞One Show Designでゴールド賞を獲得(Mr.Children)。アジア初、6ヵ国歌姫プロジェクト(アジエンス)。カンヌ国際クリエイティブアワードでシルバー賞他計3つ獲得、AdFestでゴールド賞2つ獲得、など国内外51のアワードを獲得。郷ひろみ・Chemistryの作詞家としてアルバム・オリコン1位を2度獲得。twitter:@keiichisasaki Facebook:www.facebook.com/k1countryfree HP: www.ugokasu.co.jp