振り返って考えれば20年前、1996年ぐらいに「10年後、インターネットの時代が来る」ということは皆わかっていて、それでみんなが一斉に投資をした。NTTもソニーも日立もマイクロソフトもIBMもみな一斉に動いた。それでも1996年の時点ではその競争の頂点に立つのがグーグルやアマゾン、フェイスブックやアップルであることが予測できたわけではない。

 だから10年後にIoTの時代が来るとわかっていても、そこでソフトバンクがどうなっているか?そしてARMがそこでどういう位置に立っているのかは、投資家から見ても、たぶん孫社長から見ても、今の時点ではわかるわけがないということになる。

 ではARMに現時点で3.3兆円という莫大な投資をする意味はどこにあるのか?皮肉屋に言わせるとボーダフォンとスプリントを各1.8兆円で買収し、ARMを3.3兆円で買収した合計額が6.9兆円なのに対して、現在のソフトバンクの時価総額は6.5兆円。「買収したときよりも価値が下がっているではないか」という陰口も聞こえてくる。

 しかし今回の買収には、経営戦略的にはふたつの意味がある。

 ひとつは現時点でもARMはスマホ社会の中核で非常に重要な位置を占めているということ。ARMはスマホのアプリケーションプロセッサーで85%のシェアを持つなど、スマートフォン、タブレットPCなどの中核部品を供給している。

 つまりこれからの10年間、ARMはスマホ社会にはなくてはならない企業であり、その間、キャッシュカウ(金のなる木)としてお金を稼ぎ続けてくれるということがポイントその1だ。

 そしてもうひとつが、ARMとソフトバンク、そしてアメリカのスプリントの事業ドメインを総合すると、それがIoTのど真ん中にあるということだ。

 モバイルのアプリケーションプロセッサーだけでなくARMのさまざまな半導体製品が、近未来のIoTにつながるモノの中にエンベデッド(内蔵)され、それがソフトバンクやスプリントのネットワーク経由でクラウドにつながる。

 つまりIoTがどちらに転んで行っても、そこで登場するさまざまな事業機会に一番早く気づくことができ、同時に、そこで勃興する新たなベンチャー企業に対して一番早い段階で相乗効果を提供できるアクティブな投資家として手を上げることができる。

 戦略意図をまとめると、これからの10年間、当面の間キャッシュカウが稼ぎ続けることで時価総額が維持できて、かつ、自社の事業ドメインの中で勃興する新しい事業プレイヤーに投資家として参画できる立場に立つことができる。それが「たとえ10年後の姿が今見えていなくても、意味がある」ソフトバンクの今回の買収の絵柄なのだ。