大ベストセラーとなったビジネス小説『ザ・ゴール』の著者で物理学者のエリヤフ・ゴールドラット博士。経営の全体最適化の改善手法として知られるTOC(制約理論)を広めた博士は、かねてから08年後半以降の受注減により従業員の大幅削減を行った電子部品業界へ警告を発していた。そして電子部品争奪戦が激化している今、生産能力増強に向けて多額の設備投資を検討している彼らに、それは人員削減した当時よりも深刻な事態になりかねないと警鐘を鳴らす。(翻訳/三本木亮)
08年12月の大幅な受注減は
消費者需要の影響によるものではない
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2008年12月、50%という前例のない受注減に直面し、電子部品業界は翌09年1月、従業員の大幅削減という窮余の策を打ち出す準備をしていた。当時、私はその状況を分析し、大幅な人員削減は不必要で、そのような人員削減を行なった場合、極めて深刻な状況をもたらしかねないと警告を発した(『特別寄稿 人員削減は愚策。景気の谷は深くない――「原因と結果の力」はどう働くか』週刊ダイヤモンド09年3月14日号掲載)。
しかし残念ながら、ほとんどの電子部品メーカーは人員削減を断行、3ヵ月もしないうちに需要が上向くという皮肉な状況に面したのだった。そしていままた、電子部品メーカーは当時と同じような過ちを犯そうとしている。しかし、今回はさらに深刻な問題へとつながりかねない状況にある。
08年12月の電子部品メーカーに対する大幅な受注減は、家電製品に対する消費者の需要が落ち込んだからではない。事実、世界の主要市場における家電の販売高は額にして2~3%以上落ち込むことはなく、販売個数、台数に限っていえば実は増加していた。
電子部品メーカーに対する受注減は、むしろ景気低迷を半狂乱的に報道するメディアに対して小売業者が反応した必然的な結果だったのだ。余剰在庫を抱え込むことは避けたいとする小売業者は(特に家電製品の場合、余剰在庫はすぐに陳腐化してしまうため)在庫削減を図るべくすぐさま行動を取った。