今さらではあるが、リオ五輪の競技を見ていると、世界のトップレベルで勝つことがどれだけ大変なことかを思い知らされる。

 男子テニスで日本選手として96年ぶりのメダル獲得という快挙を成し遂げた錦織圭の3位決定戦がそうだった。相手はテニス界に君臨するBIG4のひとり、ラファエル・ナダル(スペイン)。4大大会を制すること14回。8年前の北京五輪の金メダリストでもある(ロンドン大会はケガのため欠場)。錦織はこれまでナダルと10回戦って1勝しかしていない。錦織にとってナダルは、ぶつかってもぶつかっても跳ね返される分厚い壁だった。

 つけ入る隙があるとすれば、ナダルの疲労だ。ナダルは今大会、ダブルスにもエントリーしていて、3位決定戦の前々日にその決勝を戦って金メダル獲得。前日にはシングルスの準決勝でデル・ポトロ(アルゼンチン)とフルセットの激戦を行ない逆転負けしている。一方、錦織はマレー(イギリス)にストレート負けしていて疲労度は少ない。そのくらいのアドバンテージしかないと見られていたわけだ。

 しかし、試合は錦織のペースで進んだ。第1セットを6-2で取ると第2セットも5-2でリード。これまでの流れから見ると、残す2回のサービスゲームを落とすとは思えない。「こんなにあっさり勝っちゃっていいの?」と思ったものだ。

 ところが、ここから試合の流れが一変する。瀬戸際まで追い込まれたはずのナダルは、実力者の凄みを見せつけるようにポイントを重ねていく。対する錦織は、96年ぶりの重みがあるメダルがもう少しで手に入るという意識からか、動きがぎこちなくなり、ミスを連発。逆転を許しタイブレークも落として第2セットを落としてしまった。

 試合の流れは完全にナダルのものとなり、逆に錦織の方が瀬戸際に追い詰められた。しかし、ここでまたどんでん返しが起こる。第2セット終了後にトイレットブレークがとられ、ここで錦織はウエア一式を着替えるなどして気持ちを切り替えたそうだ。そして始まった第3セットでは本来のプレーを取り戻す。一方のナダルは流れをつかんだはずなのに、その通りに試合が運べないことに焦ったのか、ミスが出始めた。その結果、第3セットは6-3で錦織が取り、銅メダルを獲得した。

 それにしても二転三転する試合の流れにはハラハラしたし見ごたえもあった。世界のトップで戦う選手に実力の差はほとんどないし、ほんの少しの心の動きやちょっとした運によっても勝敗は分かれるわけだ。これはテニスに限らず他の競技にもいえること。とくに五輪は4年に1度であり、国の代表という重みも加わる。選手の勝負にかける思いは強く、その分、ドラマチックなシーンが生まれるのだろう。だからこそ五輪は見る者を熱くさせるのかもしれない。