企業は「情熱を持って会社と社会に貢献するリーダー」を求めている。
ビジネスパーソンも「仕事を通じて世の中をよくしたい」と言って入社する。
しかし、入社初日の情熱は、いつの間にか消え、いったい自分は何のため、誰のために仕事をしているのかわからなくなり、自身の仕事に誇りや思いを持てなくなってしまう。
このような矛盾はなぜ生じるのか?
大学卒業後、青年海外協力隊からマッキンゼーを経て起業した小沼大地氏が、組織で働く人たちにとっての、本当の「働く意義」について語る。
(撮影/宇佐見利明)
企業が求めていた人材が、
入社数年でいなくなってしまう「矛盾」
僕は今、留学ならぬ「留職」という変わった名前の事業を運営する、NPO法人クロスフィールズという団体の代表を務めている。
留職では、民間企業の社員が新興国へと数ヵ月間にわたって赴任し、現地の社会課題に取り組むNPOや企業の一員として、課題解決に取り組む。いわば「民間企業版の青年海外協力隊」とも呼べる取り組みだ。
参加者たちは、自社の本業で培った技術や経験を活かして新興国での課題解決に貢献するとともに、その活動を通じて「働くことの意義」について見つめ直し、仕事への情熱と目の輝きを取り戻していくのだ。
こんな「突拍子もない事業」を仲間たちとともに立ち上げ、5年が経った。
最初は誰からも見向きもされなかったが、徐々に活動の趣旨に賛同した多くの企業が留職を取り入れてくださるようになってきている。これまでにパナソニック・日立製作所・日産自動車などといった大手企業を中心に25社以上がプログラムを導入し、100人以上の日本のビジネスパーソンが、アジアの新興国で社会課題の解決に取り組んできた。
「会社での仕事を通じて、世の中をよくしたい」
多くの働く人が、就職活動のときにはこんなことを本気で語って、そんな前向きな想いとともに社会人としての生活をスタートさせるはずだ。
そしてどの企業も、「わが社は、志を持った熱い人材を待っている」などと打ち出して、情熱のある優秀な人材を欲しているし、育てようとしているはずだ。働く人の「仕事への情熱」とは、企業にとっても、事業を推進していく上での重要なパワーの源になるからだ。
にもかかわらず、その若者たちの持つ情熱という貴重な財産は、会社という組織の中で、たった数年で消えてしまっている。
若者は熱い情熱を持って会社に入る。
会社も、そんな若者たちを求めている。
なのに、こんな矛盾が起こってしまっているのだ。