「会社では好きなことはできない。本当にやりたい社会貢献はボランティアで」と思う学生やビジネスマンがいたとしたら、それは大きな間違いかも知れない。世界の先進企業が今、こぞって取り組み始めているのは社員の胸の内にある「好きなこと」をいかにしてビジネスにするか、ということ。より正確な言葉で言うと、それは「志」である。日々の仕事に忙殺されることで忘れかけていた志を取り戻し、ビジネスを活性化させようという試みが、日本でも広がってきた。そのきっかけ作りに動いているのがクロスフィールズというNPO法人。彼らが提供する「留職」とは何かを通じ、企業にとっての「留職の魅力」を探った。(取材・文/ライター 曲沼美恵)
大企業の人事担当者が注目
「留職」とは何か
3月14日の午後6時、東京都内の貸会議室に企業の人事担当者たちが続々と集まってきた。この日開かれたのは、クロスフィールズが主催する企業向けの「留職フォーラム」である。
「留職」とは何か、そして、企業はなぜ今、留職にひかれるのだろうか?
マッキンゼー・アンド・カンパニー出身の小沼大地氏とボストン・コンサルティング・グループ出身の松島由佳氏が共同でNPO法人「クロスフィールズ」を立ち上げたのは2011年5月のこと。彼らは企業の社員が一定期間、新興国に滞在し、現地の企業やNPO・NGOで働くことを通して現地にある社会的課題の解決に貢献し、自らも学ぶためのプログラムを「留職」と名付け、日本企業に提供している。
2012年度の導入企業はパナソニック1社だけだったが、2013年にはテルモ、ベネッセコーポレーション、日立、NECが新たに加わり、現在はインドやインドネシア、カンボジア、ラオスなど東南アジアと南アジアにある合計9つの機関に、それぞれの社員を派遣、または今後派遣する予定だ。
「International Corporate Volunteering(ICV)」と呼ばれるこうした試みは、アメリカやイギリスの企業では2006年頃からスタートしてはいたものの、当初は企業による社会貢献という意味合いでのみ認識されることが多かった。しかし今、そうした認識は大きく変わりつつあるという。
背景にはいったい、何があるのだろうか?