「高ストレス社員」が少ない
リモートワーク導入条件とは?

 リモートワークを望む声、出社勤務を望む声など、日々、産業医の耳にはさまざまな声が聞こえてきます。4回目の緊急事態宣言も明け、従業員を出社させるべきかリモートワークさせるべきか、企業にとっては頭を悩ます状況になってきている印象です。

 そこで、社員のストレスを一番減らすことができるポストコロナの体制について、産業医から提案をしたいと思います。それは、社員に出勤や在宅勤務の「選択肢」をある程度持たせた、フレックス“デイ”制度です。

 コロナ前から多くの企業で採用されているフレックス“タイム”制は、1日の中でコアタイムを決め、その時間帯は出社することとし、その前後の時間をどのように勤務するかを社員が選択できました。社員たちは、個々人の好みや保育園の送迎により、この範囲内であれば自由に選択できました。

 私の考えるフレックス“デイ”制度は、1カ月間(または1週間)のうち、何回出社するとか、何曜日(何時)は出社することなどを部署ごとに決め、それ以外については、在宅でも出勤でもどちらでも自由に社員が選択できるようにすることです。リモートワークと出勤を混ぜ合わせたハイブリッド型勤務体系でもありますが、それよりも必ずいつかは出社して集まらなければいけないという強制力を少し加えたイメージとなります。

 そのためには、オフィスをフリーアドレスにし、業務をペーパーレスにする必要性があることは言うまでもないでしょう。社長自らがこの制度を推進し、管理職でも、新体制に適応できない人には外の環境に移ってもらう覚悟も必要かもしれません。

 IT周り、机や椅子、家庭内での居場所など、リモートワーク環境が職場環境ほど整っていない社員もおり、自宅のオフィス化も必要です。浮いた通勤交通費を業務準備費などと名称を変え、自宅オフィスに設備投資をできるようにしてもよいかもしれません。

 そのほかには、業務や判断の責任が曖昧な従来の仕事の仕組みから、社員それぞれの業務(タスク)を明確化した体制、職場滞在時間(労働時間)を評価する制度(“いる”ことが仕事の企業文化)から、結果を評価する制度への移行も必要でしょう。

 このような環境であれば、出社勤務も在宅勤務も関係なく、業務はちゃんと回るでしょう。部署ごとに出勤日を重なりすぎないように調整できれば、オフィスの座席数を社員数よりも少なくできますから、会社側にとっては固定費の削減にもなります。

 私のクライアントにおける昨年のストレスチェックテストの結果によると、最も高ストレス者が少なかった会社は、コロナ前から在宅勤務が推奨され、普及していたクライアントでした。外資系のその企業は、以前からフリーアドレス化(座席数削減)、ペーパーレス化、業務の明確化、労働時間だけではない人事評価などを取り入れており、緊急事態宣言に伴ういきなりの在宅勤務も、他社に比べると皆ストレスなくスムーズに移行している印象を受けました。もちろん、出社勤務を希望する声も産業医面談では聞こえては来ますが、おおむね在宅勤務で良好に業務が回っています。

 このように、「高ストレス社員」が少ないのは、職場環境だけでなく社員のリモートワーク環境にも設備投資をできる企業や、業務内容が明確になっている企業、労働時間当たりの仕事量(結果)に評価基準を合わせられる企業です。これらのリモートワーク導入企業が、働き方の選択肢として、今後有利になっていくでしょう。