日曜日(2011年10月30日)の日経新聞に「TPP交渉参加 是か非か」という記事が掲載された。TPP賛成派の小見出しが「10年後見据えて決断必要」であったのに対し、反対派の小見出しは「食料自給率低下は必至」というものであった。食料自給率はTPP反対の主因となるほどのおおごとなのだろうか。そこで、農林水産省のHPを開いて食料自給率について、調べてみることにした。

データをきちんと見れば明らか。
食料自給率の低下は必然であった

 農林水産基本データ集を見ると、わが国の食料自給率は、カロリーベース 1が39%(2010年度概算値。目標は2020年度で50%)、生産額ベース2 が69%(目標70%)となっている。生産額ベースでは、10年後の目標をほぼ達成しているが、カロリーベースでは10%以上劣後している。そして、どうやら識者(?)が常に問題視するのは、このカロリーベースの数値であるようなのだ。

 このカロリーベースの食料自給率は過去、どのように推移してきたのだろうか。78%(1961年度)→60%(1970)→53%(1980)→48%(1990)→40%(2000)と一貫して低下傾向を辿っており、ボトムは37%(1993年度)であった。この理由は明らかで、自給率の高い(98%)米の消費量(1人1年当たり)が、1964年度対比で47%減少したのに対し、自給率の低い(16%)畜産物が128%増加、同じく自給率がほとんどない(3%)油脂類が114%増加したことが主因であろう。

 つまり、日本人が豊かになって、肉や牛乳、植物油などを食べるようになったが、山地が多く平野の少ないわが国では飼料作物や油用作物を生産する土地が十分にはなかったので、安価な外国産の畜産物や油脂類を輸入した結果として、カロリーベースの自給率が下がったというわけである。ちなみに、カロリーベースの自給率のシェア(内訳)に占めるトップ3は米が23.6%、畜産物が15.9%、油脂類が13.9%であって、この3品目で53.4%のカロリーを供給していることになる(その次は自給率8%の小麦が、13.4%のカロリーを供給している)。

 このように考えると、カロリーベースの自給率を上げるためには、食生活を昔に戻すしか他に方法がないのではないか。米に次いで自給率が高いのは野菜(77%)と魚介類(60%)であるが、各々が供給しているカロリーはわずか2.8%と4.9%に過ぎない。自給率が50%を超えているのは米と野菜と魚介類の3品目だけであり(その次は果実で自給率34%である)、この3品目で大半のカロリーを摂取するように、日本人の食生活が激変しない限り、カロリーベースの自給率50%という目標を達成することは不可能である。

 これは、この50%という目標自体が絵に描いた餅に過ぎないことを示しているのではないか。そうだとすると、食料自給率の低下は、決して悪いことではなく、単にわが国の食生活の変化を反映しているだけに過ぎないのではないか。それを、いかにも、外国から食料が入ってこなければどうするか、といった狼少年的な使い方をするのはいかがなものだろうか。

 ちなみに、カロリーベースの食料自給率というデータ自体、わが国が独自に編み出したものであり、他の先進国ではまったく使われていないことを付言しておきたい。

1.食料自給率のカロリーベースとは、国民1人1日当たりに必要なカロリーのうち、国内のカロリーで補われている割合をあらわすもの(http://www.maff.go.jp/kinki/seibi/sekei/kokuei/yodogawa/yodogawa04-2.htmlより)。
2.食料自給率の生産額ベースとは、国内で消費された額のうち、国内で生産された額の割合をあらわすもの(http://www.maff.go.jp/kinki/seibi/sekei/kokuei/yodogawa/yodogawa04-2.htmlより)。