「論理に裏打ちされた戦略があってこそ、成功にたどりつける」――これがかつてのビジネスの常識だった。しかし「他者モードの戦略」は、いたるところで機能不全を起こしつつある。その背後で、いま、マーケットに強烈なインパクトを与えているのは、「根拠のない妄想・直感」を見事に手なずけた人たちだ。
そんななか、最新刊『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』を著した佐宗邦威氏は、いま何を考えているのか? P&G、ソニーで活躍し、米国デザインスクールで学んだ最注目の「戦略デザイナー」が語る「感性ベースの思考法」の決定版!!

「自分との会議」をスケジュール予約し、強制的に「余裕」をつくりだす方法

「何もしない時間」をスケジュール予約する

忙しさのあまり、自分の関心や直感、妄想といったものを見失った状態に、現代人は陥りがちである。そのとき、まず何よりもの得策は、まっさらなノートを買って、毎朝15分、そこに感情を吐き出すことだ。

これを繰り返すだけでも、その人の脳は「思ったこと」をアウトプットする習慣を取り戻し、かなりポジティブな効能を実感できるはずだ。

一方、ノートを買うのは誰にでもできるはずだが、多くの人がこぼすのが「忙しい」という悩みである。要するに、いくら「空間的な余白」を確保しても、それを書くための「時間的な余白」がないというわけだ。

とはいえ、時間上の余白についても考え方は同じだ。「そのうちヒマな時間ができる」のを待っていては、いつまで経っても余白は生まれない。

「他人モード」に先回りして、その侵入を受けない時間帯、「自分モード」のスケジュールを予約して、予定をブロックしてしまうことが必要なのである。

空間的な余白をつくる最良の方法が「いますぐノートを買うこと」なのだとすれば、時間的な余白をつくるいちばんの方法は、「いますぐ『自分モード』の予定を入れること」である。

このとき、紙のスケジュール帳に予定を書き込んでもいいが、よりおすすめなのはスマートフォンのカレンダーアプリである。

繰り返しのサイクルが決まっている予定などは、ワンタッチで簡単に設定ができるし、予定の10分前にプッシュ通知が入るように設定しておけば、忙しさのせいでつい忘れてしまうということがない。時間的余白をつくるという点では、むしろデジタルデバイスに軍配が上がると言っていいだろう。

「自分モード」の予定を押さえるときは、必ず「何をするための時間なのか」もセットで決めておく。一例として、余白の押さえ方をまとめておこう。

 □ 時間単位の余白―朝8時・昼11時・昼15時・夜10時半に毎日アラームが鳴るように設定。そのたびに、1分間だけ自分の呼吸に注意を向けるマインドフルネス瞑想を行う。「Headspace」や「Calm」といったモバイル瞑想アプリを併用するのもいいだろう。1分間の余白を確保することは、より大きな余白を手に入れるための第一歩だ。

 □ 日単位の余白―毎日の決められた時間に「自分だけのための予定」を入れる。夜の予定はなかなかコントロールしづらい部分もあるので、日単位の余白は「朝」か「昼」がおすすめ。毎朝1時間くらい早起きをして、オフィスに行く前に必ずカフェに立ち寄るのはどうだろうか。同僚と代わり映えのしないランチをとるくらいなら、そこを「余白」としてデザインし直すのもいいだろう。日単位の余白は、ジャーナリングなどに向いている。

 □ 週単位の余白―「水曜日の夜」「土曜日の朝」など、1週間のなかの決まったタイミングに、2〜3時間をまとめてブロックする。毎日のノートを見返したり、テーマを決めて自分を振り返ったりと、余裕を持って自分自身と向き合う時間を確保しておく。

 □ 中長期単位の余白―年に4回(3ヵ月おき)ほど、「自分モード」デーをつくる。たとえば、3月末・6月末・9月末・12月末の1日を丸ごとブロックし、ほかの予定が入らないようにしておくといいだろう。それがなかなか難しいようなら、親しい友人と「年に1度の振り返りデー」を約束し、日程を決めてしまうというやり方もある。

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
「自分との会議」をスケジュール予約し、強制的に「余裕」をつくりだす方法

株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー。大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』(クロスメディア・パブリッシング)がある。