『週刊ダイヤモンド』10月24日号の第一特集は「株の鉄則」です。コロナ禍に続き、今度は菅義偉首相による「スガノミクス」の大成長戦略が株価を大きく動かそうとしている。流れに乗るための株投資の入門講座とともに、スガノ相場の本命株を徹底解明する。

株価に効く!知っておくべき
菅首相の思考とブレーン

 首相官邸の裏手に位置するザ・キャピトルホテル東急3階のレストラン「ORIGAMI」の一番奥まった所にある個室でここ数年、幾つもの歴史的改革案が練られてきた。

 主導してきたのは内閣官房長官時代の菅義偉・現首相だ。菅首相は政治家や官僚をはじめ、若手起業家、トップアナリスト、大手企業経営者など、さまざまな世界のキーマンたちとこの部屋で会合をもつのが日課だった。

 その習慣は首相就任後も変わらず、10月8日には吉田憲一郎・ソニー社長、瀬戸欣哉・LIXILグループ社長らとの会合があったばかり。金融庁の大物長官として名をはせた森信親氏も長官在任時、地方銀行担当の部下と共にここで地銀再編の議論を菅長官(当時)と交わしてきた。

 「ORIGAMIなど高級レストランの個室で、朝に2回、昼に1回、夜に2回の会合というのが長官時代の定番。菅さんはアルコールの代わりにペリエを飲みながら、相手の話に聞き入るのが常でした」(官邸周辺)。

 菅官邸に近い関係者は「連日の会合で培った改革派人脈こそが、新政権によるスガノミクス改革で大きな役割を果たす」と指摘する。

 そもそも菅首相は改革志向が強い政治家とされ、政策を具体的に語る点が最大の特徴。「規制改革」「縦割り打破」を掲げ、先の自民党総裁選でも地銀再編、携帯電話料金の引き下げ、不妊治療の保険適用、デジタル庁創設といった改革案を矢継ぎ早に打ち出した。

 それ故、株価に与えるインパクトも大きいとされる「スガノミクス」。まずは、その具体的な中身を考える菅首相の思考回路がどうなっているのか見ていこう。

「マクロ」より「ミクロ」
「理念」よりも「実務」
個別案件を最重視

 官房長官時代の菅首相に仕えた霞が関の住人は、かつてのボスを「『マクロ』より『ミクロ』の視点で動き、『理念』よりも『実務』の思考回路を持った政治家」と評する。具体的な個別案件を最も重視して、その課題の根底に「官」の問題があるとみるや、規制改革や法改正、手続きや意思決定プロセスの改善にちゅうちょなく乗り出すという。

 また、菅首相を知る大手企業幹部は「企業、産業の〝新陳代謝〟に基づく成長戦略を何よりも重視している」と指摘。つまり、再編淘汰をよしとするスガノミクスは、既得権を持った企業にとっては致命傷になりかねず、新規参入を狙う企業にとっては千載一遇の好機となるかもしれないのだ。

 となると、業界構造が激変する可能性もある。実際、菅首相の「経済ブレーン」と目される人物の中には、産業の新陳代謝を求める構造改革派が目立つ。

 例えば、金丸恭文・フューチャー会長兼社長、北尾吉孝・SBIホールディングス社長、竹中平蔵・慶応大学名誉教授、デービッド・アトキンソン・小西美術工藝社社長、新浪剛史・サントリーホールディングス社長といった面々だ。

浮かぶ業界、沈む業界
市場での“序列”を大解剖

 改革派ブレーンの知恵を得た菅首相が打ち出す政策の行方は、各業界の優劣をも一変させてようとしている。スガノミクス相場では誰が笑い、泣くのか。トップストラテジストの見解を基にまとめた。

 市場で「マクロの安倍、ミクロの菅」との評も聞かれ、既得権益の打破を重視する菅首相。ターゲットとなった業界の株価の動向をも左右するだけに、政権が繰り出す「次の一手」にはかつてないほどの関心が集まっている。

 そこで常に先々のシナリオを織り込む株式市場の目線を知るべく、機関投資家が選ぶストラテジストランキングで2020年まで4年連続首位となった、みずほ証券の菊地正俊チーフ株式ストラテジストが、菅政権の政策を反映した最新のセクター別の投資判断を示したものが下表だ。

通信業界の投資判断は
最上位から一気に最下位へ

 直近でマイナス方向に影響した代表的な業種が情報通信。以前から通信料金の引き下げを標榜する菅氏が首相になったことで、KDDI、ソフトバンク、NTTドコモの携帯キャリア3社の業績には暗雲が垂れ込めている。

 携帯料金引き下げは前々からくすぶっていた話ではあるが、菅氏の改革の「本気度」を考慮し、菊地氏のチームは直近の同セクターの投資判断を修正。これまで3段階の最上位の「オーバーウエート」だったが、一気に最下位の「アンダーウエート」へ引き下げた。

 菊地氏は「菅首相はマクロ経済の姿を語るのではなく、分野を絞って集中的に取り組む特徴があり、投資戦略もミクロ視点から考えざるを得ない」と指摘。「規制改革に重点を置くため、規制改革推進会議で議論されてきた論点に注目している」と話す。

 一方、菅氏の政策がプラスに働きそうなのが陸運や空運だ。菊地氏はコロナ禍に苦しむ両業界に関し、「観光業促進による地方振興をライフワークとする菅氏が何らかの追加支援策を打ち出す可能性もある」とみて、投資判断をアンダーウエートから中立に見直した。

 今後もスガノミクス相場では、菅氏の政策の方向性を注視して臨むべき点を念頭に置いておきたい。
 (ダイヤモンド編集部 竹田幸平、山口圭介)