転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。ビジョナル創業者、南壮一郎氏の経営に大きな影響を与えた人物の一人が現ヤフーCOO(最高執行責任者)の小澤隆生氏です。南氏が東北楽天ゴールデンイーグルスの創業メンバーとして働いてた際の直属の上司であり、今も「事業立ち上げの師」と仰ぐ人物。小澤氏は仮説を立てる際、「打ち出し角度」を決めることが大切と言います。(聞き手は蛯谷敏)

■インタビュー1回目▶「ヤフーCOO小澤隆生氏「成功事例を徹底的に調べて勝ちパターンを探れ」」
■インタビュー2回目▶「ヤフーCOO小澤隆生氏「名経営者だって外しまくっている。成功するにはとにかく試せ!」」

ヤフーCOO小澤隆生氏「事業の仮説は人間の根源的欲求から立てていく」プロ野球「楽天イーグルス」立ち上げ時、南氏の上司だった現ヤフーCOOの小澤隆生氏

――前回のインタビュー(「ヤフーCOO小澤隆生氏「名経営者だって外しまくっている。成功するにはとにかく試せ!」」)では仮説を立てて試すことの大切さを教えてくれました。小澤さんは仮説を立てる際、「打ち出し角度」という言葉をよく使うそうですね。

小澤隆生氏(以下、小澤):例えば、従業員に何か新しい事業計画を出してと指示を出したとします。でも、それって最悪の指示なんですよ。受けた相手は、「どうしたらいいんですか」と頭を抱えてしまう。だから、角度を決めてあげることが大事なんです。

 ゴルフ場にはティーグラウンドがあって、グリーンがあって、全体を4打でホールに入れたらパーだというルールがあるから、頑張れる。ところが、野っ原にゴルフクラブとボールだけ渡して「遊んでいいよ」と言われても、よほど創造力のある人でなければゴルフというスポーツにはなりません。

 だから、そこはまず、ある程度の見取り図を教えてあげる。例えば、あっちの角度に向かってクラブでこうやって打つ競技だよ、と決めてあげることが重要です。それによって、初めてみんな頑張り方が分かるわけです。

――何をすればいいのか迷わなくなるんですね。

小澤:そう。勘違いしてはいけないのは、「権限移譲」とか言って、ボールとクラブを渡すだけで「どうぞ」とやるのは、単なる丸投げなんです。

 これをマネジメントの観点で言うと、複数の事業を管理する時は、そのルールをチェックしていくわけです。

 イメージで言うと、自分はヘリコプターで飛んでいる。眼下には、探検隊のように従業員が事業を進めている。上から見て、「そっちには川がある」「そっちは谷だ」「ゴールは近い」といった具合に指示を出していく。

 僕が下に降りてしまうと、1つのグループしか率いれない。複数の部署や複数の会社を見ようとしたら、自分は降りていかない方がいい。だからこそ、ルールであり、打ち出し角度をしっかりと決めて、守らせていくことが大事になっていくわけです。

「打ち出した角度」が本質的に間違っていなければ、事業はそんなに間違わない。

――事業づくりにおける基本動作が「打ち出し角度」を決めるということなんですね。

小澤:人間には根源的な欲求ってあるじゃない? おいしいものを食べたいとか、同じ品質のものだったら安い方がいいとか。仮説を立てる際には、割とこの辺が重要なんです。

 なぜなら、事業は最終的に人がサービスを使うから。だから、人間の根源的な欲求に外れてしまうと、サービスそのものが外れる可能性が高くなる。

 例えばEC(電子商取引)で言うと、どんなに使いやすいサイトでも、そこで自分がほしいと思う商品が売ってなかったら使われないんです。それを忘れると、「ユーザーが使いづらい」「ライバルのサービスの方が便利」と言った声に惑わされて、商品の品揃えを拡充するよりも、物流を整えようといった判断になってしまう。でも、やっぱり売れないんだよね。

「小澤さん、早くしないとこれまずいよ」とか「評判最悪だよ」とか批判を受けた時に、「それはすみません」と言いながらのみ込めるかどうか。やっぱり人間の欲求に忠実に従った方が、正しいサービスをつくれると信じられるかどうかなんですよね。そういう判断力を養っていく必要はありますね。(談)

 今回、紹介したエピソードのほか、ビジョナルの創業ノンフィクション『突き抜けるまで問い続けろ』では、起業の悩みから急拡大する組織の中で生まれる多様な課題(部門間の軋轢や離職者の急増、組織拡大の壁)に、ビズリーチ創業者たちがどう乗り越えてきたのかがリアルに描かれています。