世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されないための「データと視点」
人口問題、SDGs、資源戦争、貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫る! データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあり方を理解する。
書き手は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動している。『経済は統計から学べ!』を出版し、「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つの視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台としての統計データ」をわかりやすく解説している。

もう日本は「ものづくり大国」ではない!? 貿易統計が示す残酷な現実

「アメリカからアジアへ」日本の生存戦略

 2019年の日本の貿易統計は、輸出額が76兆9317億円、輸入額は78兆5995億円。貿易収支は1兆6678億円の赤字でした。これは米中貿易摩擦による保護主義的な動きがみられたことが背景にあります。

 輸出品目をみると、機械類、自動車、自動車部品、鉄鋼、プラスチック、精密機械などが上位品目です。先進国の多くで輸出品目は「1位機械類、2位自動車」となっており、日本も同様です。

 一方の輸入品目は、機械類、原油、液化天然ガス、衣類、医薬品、石炭が上位品目です。ここでは日本とASEAN、EU、中国との貿易を個別に見ていきます。冒頭の表は、日本とASEAN、中国、EUのそれぞれの間における主要輸出入品の金額別上位5品目を示したものです。

 日本とASEANとの貿易統計から見ていきます。ASEANだけでなく、日本はアジア各国・地域と相互依存関係が確立しています。日本からは部品を輸出し、生産拠点国からは完成品を輸入します。国際分業体制の進展が背景に考えられます。

 今後はますますこの傾向が強まると考えられます。本来、日本は「ものづくり大国」であるはずですが、新興国への部品供給地としての性格が強くなっています。

 特にASEANは工業発展が著しく、2015年12月にASEAN経済共同体(AEC)が発足したことも大きく影響しています。とはいいつつも、ASEANから日本への輸出は、液化天然ガスや衣類なども依然として上位を占めています。

 中国との貿易統計をみると、中国から日本への輸出品目に「衣類」があります。中国は世界最大の綿花の生産国であり、また豊富な低賃金労働力を活かした綿織物製品の世界的な製造拠点となっています。

 しかし、中国国内の綿花生産の約7割が内陸に位置するシンチャンウイグル自治区に偏っているため、国内輸送が難しく、綿花の多くを輸入しています。

 中国は世界的な綿花の輸入国でもあるのです。また機械類の世界的な製造拠点でもあるため、「通信機」や「電算機類」、「音響映像機器」などの生産・輸出が盛んです。

 一方、中国は日本から「半導体等電子部品」や「プラスチック」、「自動車」などを輸入しています。これらは日本が得意とする分野ですね。