円安イメージPhoto:PIXTA

外国為替市場で、円の実質実効為替レートが1970年代前半並みの水準まで落ち込んでいる。「割安な実質実効レートはいずれ修正が進む」と考えるのは教科書的に正しいが、これを前提とした予想は危険をはらんでいる。(みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔)

過去1年間で最も長期平均から
乖離した「安い日本」の円

 近年、「安い日本」が各種メディアで特集されることが多くなったように思う。日本経済新聞は新型iPhoneが発売された9月、「iPhone価格、10年で3倍の19万円 日本人平均月収の6割」と題し、新しいiPhoneの値段が日本人にとって高騰している事実を報じていたが、高くなっているのは何もiPhoneだけではない。

 高級車や高級時計など輸入されるブランド品は過去に比べてはっきり値段が上がっている。ここで気になるのは輸入品を購入する際に大きな影響力を持つ為替レートの議論である。

 以下で議論するように、過去1年間において円の下落幅は主要通貨の中でも群を抜いて大きく、これは日本経済の購買力低下を意味する。

 一国の購買力を推し量るという視点からはドル/円相場ではなく、貿易量および物価水準を用いて算出される通貨の総合力である、実質実効為替レート(以下、REER)を中心に議論するのがいい。

 現状、国際決済銀行(BIS)が月次で公表する円のREERは1970年代前半並みの水準まで落ち込んでいる。現在入手可能な今年8月分のREERに関し、長期平均(20年平均)との乖離率を主要通貨で比較すると円の特異な立ち位置が浮かび上がってくる。