岸田政権“新しい資本主義”より優先すべき「新自由主義の規制改革」Photo:PIXTA

岸田政権は「中間層を手厚く」することを目標に掲げる。そのために、官が民に介入する施策を打ち出している。しかし、官の民への介入は失敗の歴史だ。むしろ、岸田政権が転換を主張する「新自由主義」において進められた規制改革こそが重要である。規制改革によって経済成長を高めることが、中間層を厚くするための取るべき施策である。(昭和女子大学副学長・現代ビジネス研究所長 八代尚宏)

失敗してきた官の民への介入
価格抑制のためのガソリン補助金は愚策

 岸田首相は、歴代の自民党政権との違いとして「新自由主義からの転換」を主張し、自らの政策の基盤として分配を重視した「新しい資本主義」を掲げた。しかし、これまでに岸田政権が手掛けた政策は、ひたすら財政支出に依存した需要拡大路線であり、何が「新しい」のかは不明である。

 これまでの岸田政権の具体的な政策について、仮に新自由主義的な政権ならどうしたかを考えることで、岸田政権との違いを比較する。

 もっとも新自由主義に近かった小泉純一郎政権でも、すべての経済活動を市場に任せたわけではない。ただ、「民にできるものは民に」を基本原則として、官製の巨大な金融機関である郵貯、簡保を含む郵政三事業の民営化などを、大きな政治的抵抗を押し切って実現した。

 これに対して、岸田内閣の「新しい資本主義実現会議」によれば、「全てを市場に任せるのではなく、官民が連携し、新しい時代の経済を創る必要がある。民間がイノベーションを起こし、それを官が支援することを基本とする」としている。

 これでは「官の手助けなしには民のイノベーションは実現できない」と同じ意味である。岸田内閣は、官が特定の産業分野に的を絞り、税制上の優遇や補助金などで、新産業を創出すべきだという「産業政策」の復活を前面に掲げているのだろうか。

 政府が特定の産業や企業を支援するターゲティング・ポリシーは、官僚に、どの産業や企業が成長するかを早期に判断する能力があることが大きな前提となっている。しかし、そうした産業政策は、日本の産業が活力にあふれていた高度成長期にも成功しなかった。

 米国のGMやフォードなど、巨大な自動車メーカーに対応するため、日本の多くの自動車メーカーを日産とトヨタに集約しようとした特定産業振興臨時措置法は見事に失敗した。しかし、その結果、互いの激しい競争で日系メーカーの競争力が向上し、米国ビッグスリーの寡占体制に打ち勝った。

 1990年代以降でも、急速に競争力を失った日本の半導体メーカーの復活を目指し、複数の国策半導体会社を合併させ、政府系ファンドなどによる多額の公費を投入してきたが、その成果は上がっていない。最近のガソリン価格の急騰に対して、元売り会社に補助金を支給して小売価格を抑制するという政策も、主要な市場価格の変動には国が介入すればよいという官製カルテルの発想だ。

 直近のCOP26では、温暖化防止対策が求められた。石炭だけでなく石油製品の消費の抑制も必要である。そのためには、むしろ炭素税のスムーズな導入に知恵を絞るべきである。単に石油価格の上昇を補助金で抑制することでは、暖房したビニールハウスで、本来の季節よりも早期に果物などを育てるビジネスも支援することになる。