
小林真一郎
米トランプ政権による相互関税は「90日間一時停止」となったものの、自動車への追加関税発動、中国との貿易摩擦のエスカレートなど、日本経済へのマイナスの影響は着実に進む。米国のスタグフレーションから世界同時不況に進むことになれば、輸出減だけでなく消費者マインドの悪化を通じてマイナス効果は内需にまで波及し、早ければ7~9月期の実質GDP(国内総生産)のマイナス成長もあり得る。

日本銀行は今年最後の12月金融政策決定会合での利上げは見送ったが、2025年も金利正常化の流れは続く見通しだ。利上げペースは緩やかで実体経済の影響は軽微だが、競争力をなくしても超低利で生き長らえた中小企業や巨額債務を抱える財政は、利払いコスト増で厳しい環境になる。

春闘の高賃上げや株価最高値更新など消費の環境は好材料がそろうが、GDP統計の実質個人消費は4四半期連続で前期比マイナスだ。税や社会保険料負担増で可処分所得は減っていることや今後の物価上昇懸念、高賃上げ継続への疑問が残るからだ。消費回復は消費者マインドの改善が鍵を握る。

今春闘は33年ぶりの高い賃上げ率になりそうだが、消費回復につながりさらに賃金が上昇する好循環になるかは安心できない。中小零細企業の賃上げ余力は乏しく全ての労働者が高い賃上げを享受するわけではない。賃金は上がってもボーナスは低迷する懸念や先行きの物価上昇への警戒感も根強いからだ。

日本経済はかつて石油危機やプラザ合意を機に起きたような構造的変化がコロナショックで起きた。物価が上がることが普通になり、人手不足など、需要ではなく供給問題が懸念される経済になったが、この変化の下2024年は物価上昇と賃金がどこまで連動するようになったかが注目点だ。

植田日銀は最速2024年春先に利上げに転じることを「ベストシナリオ」としていると考えられる。しかしFRBの金融政策の動向や日本の景気悪化の懸念、名目賃金の3%程度の上昇が確保されるのかなど、シナリオ実現には高いハードルがある。

日銀の「YCC運用柔軟化」は金融引き締めへの第一歩だ。世界的なインフレ・利上げ局面への転換以降、YCCで長期金利上昇を抑えるのは限界になっており、今年度後半には完全撤廃の可能性もある。ただし短期金利引き上げはまだ時間がかかりそうだ。
