
菅井 郁
トランプ政権による大学など研究機関への助成凍結や留学生ビザ審査厳格化で米国のイノベーションや成長を支えてきた「知の流出」が懸念される。研究者数や1人当たりのR&D投資は米国が圧倒的で、米国から流出する高度人材呼び込みに動く日欧なども穴を埋めるのは至難だ。世界は「米国なき技術進歩」という困難な命題を抱える。

トランプ「相互関税」が「90日停止」となったのは米株式や国債が「トリプル安」となるなど米経済の不透明感の強まりがある。一連のトランプ関税は米GDPを2.1%程度押し下げる計算で、今後、相互関税が各国との交渉でどの程度、見直されるかについては米国世論がどう変わるかが大きな要因だ。

トランプ新政権はカナダ・メキシコ・中国に対する関税導入を宣言。カナダなどとは協議を進めるということで発動は「1カ月停止」になったが、世界は貿易戦争突入の瀬戸際だ。主要な貿易取引国への大幅な関税引き上げは、米国もインフレ再燃などで「返り血」を浴びる。深刻なのはトランプ政権にブレーキ役がいないことだ。

トランプ氏の経済政策は減税などの財政拡張で景気押し上げが期待される一方、関税引き上げで物価が上昇、景気が押し下げられる懸念があり「もろ刃の剣」だ。最悪の場合、財政拡張、関税引き上げによるインフレ再燃と景気後退が同時に進み、「景気軟着陸」シナリオが崩れる懸念がある。

米国経済は堅調だが、成長や株価上昇をけん引するのは生成AIや半導体などの10社ほどの大手テック企業や高所得層だ。一般企業や低所得層は高金利、インフレ、雇用悪化の三重苦にあえぐ。8月に入っての米株価急落は「二極化経済」の脆弱性を露呈した可能性がある。

米国経済は堅調だが、成長や株価上昇をけん引するのは生成AIや半導体などの10社ほどの大手テック企業や高所得層だ。一般企業や低所得層は高金利、インフレ、雇用悪化の三重苦にあえぐ。8月に入っての米株価急落は「二極化経済」の脆弱性を露呈した可能性がある。
