中国やアジアを重視した成長戦略を模索する日本企業にとって、近年急上昇しているキーワードがある。「チャイワン(Chaiwan)」だ。中国(China)と台湾(Taiwan)を組み合わせた造語で、韓国メディアが使い始めた。中国の市場に活路を見出そうとする台湾と、台湾企業の優れた生産技術を活用しようという中国。両者の思惑がマッチした「チャイワン」は、日本企業にとって脅威となるのか、あるいはビジネスチャンスを拡大するパートナーとなるのか。中台アライアンス(企業・産業協力)事情に詳しい伊藤信悟・みずほ総合研究所調査本部アジア調査部上席主任研究員に聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 中島 恵)

――「チャイワン」という言葉を聞き慣れない人もいると思います。「チャイワン」は、どのような意味や経緯で用いられるようになったのでしょうか?

 一言でいえば、中台双方の政府支援の下で行なわれるアライアンスのことです。中国と台湾には、政治対立など複雑な歴史背景があり、台湾は中国との経済交流を特別に制限してきました。

 しかし1980年代末頃から、中国が生産拠点や市場としての魅力を増すにつれ、規制されているにもかかわらず、台湾企業が中国との経済交流を積極化させていきました。台湾の歴代政権がその「違法行為」を追認しても、さらなる規制緩和を台湾企業が求める。こうした「いたちごっこ」が展開されてきたのです。

 それに対し、2008年に発足した馬英九政権は、中国との企業・産業協力を積極的に支援することを重要な政策の柱に据え、矢継ぎ早に実行に移しています。中国の経済大国化に積極的に適応することが、台湾経済の活性化には必要不可欠だと考えているからです。

 この動きに敏感に反応したのが、韓国企業でした。中台連携によって中国の液晶パネル・液晶テレビ市場で韓国企業のシェアが低下したことから、韓国メディアが警鐘を鳴らすようになり、中台間の企業協力のことを「チャイワン」と呼び始めたのです。日本でも、09年夏頃からメディアで少しづつこの言葉が使用されるようになりました。

――馬英九政権は、どのような対中経済交流政策をとったのでしょうか?

 まず、これまで特別に厳しく制限してきた中国との経済交流規制を削減・撤廃し、できる限り他国と同等に扱うことにしました。つまり、対中経済関係を特別視せず、「正常化」しようとしたのです。