地上の太陽 核融合新時代#52023年12月、茨城県那珂市の量子科学技術研究開発機構・那珂研究所で大型核融合実験装置「JT-60SA」の運転開始記念式典でボタンを押す(左から)欧州委員会のシムソン委員、盛山正仁文部科学相と高市早苗科学技術担当相(肩書きはいずれも当時) Photo:JIJI

「究極のエネルギー源」ともいわれる核融合。実は日本は、70年にわたりその研究を蓄積してきた核融合先進国だ。欧州、米国、中国など各国政府が自国での開発を強力に援助する中、日本でも核融合開発が国家戦略に位置付けられるようになってきた。特集『地上の太陽 核融合新時代』の#5では、核融合開発の歴史をひもときながら、日本の核融合戦略の現状や課題を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)

技術や人材の海外流出リスクも
日本の核融合戦略が抱える課題とは?

 究極のエネルギーともいわれる核融合エネルギーが脚光を浴びている。

 核融合とは、原子核同士が融合して別の原子核に変わる反応のことで、この際に大きなエネルギーが生じる。太陽が莫大なエネルギーを出し続けていられるのは、内部で核融合反応が起きているためだ。

 この反応を人工的に起こし、エネルギー源として活用できれば、カーボンニュートラルや原子力発電所の安全性など、エネルギー源を巡る問題の救世主となり得る。現在の核融合研究で主流とされる重水素とトリチウムを用いた核融合反応では、温室効果ガスが排出されない上、燃料の入手は比較的容易とされる。

 核融合という言葉から原子力を想起しがちだが、核融合発電は原発で指摘されるような暴走リスクは低く、放射性廃棄物処理の問題も原発に比べて軽微とされる。まさに、「夢のエネルギー」というわけだ。

 実は、日本は70年にわたって核融合研究の知見を蓄積してきた核融合先進国だ。詳細は次ページで述べるが、欧州、米国、中国など各国政府が自国での開発を強力に援助する中、日本でも核融合開発が国家戦略に位置付けられつつある。プロジェクトが順調に進めば、10年後には核融合発電が私たちの生活を支えているかもしれない。

 だが、そのための課題は多い。技術や人材の海外流出リスクを日本は抱えている。民間も核融合実現に一枚岩になり切れない「同床異夢」の現実もある。このままでは「技術で勝って事業で負ける」悪夢になりかねない。

 日本は、グローバルの開発競争を勝ち抜くことができるのか。

 次ページでは、核融合開発の歴史をひもときながら、日本の核融合戦略の現状や課題を明らかにする。