熾烈な価格競争を繰り広げるMVNO。無料通話や無料のアプリ通信に加え、中には一定の通信量まで無料というプランもある Photo by Shinya Kitahama

 日本通信は8月18日、同社が展開する個人向けSIM事業でU-NEXTと「協業」することを発表した。これまで日本通信がMVNO(仮想移動体通信事業者)として提供してきた通信サービスはU-NEXTに引き継がれ、日本通信は今後MVNE(仮想移動体サービス提供者)としてMVNOに回線を提供するなどの“卸”事業に集中する。協業の詳細については「まだ検討を始めた段階」(日本通信広報)という。

 日本通信はスマートフォンが普及する以前の2001年、DDIポケット(現ワイモバイル)のPHS回線を用いた世界初となるデータ通信MVNO事業を開始したMVNOのパイオニアだ。それだけに今回の事業譲渡の発表は業界内に大きな衝撃を与えており、同じくMVNOとしてサービスを提供する大手通信企業の幹部は、「国内のMVNOが大きな岐路に差し掛かった一つの象徴のようだ」と感想を漏らす。

 日本通信は16年3月期決算で当初11億円の営業黒字を予想していたが、「VAIO Phone」の不振による在庫評価減などにより約20億円の赤字に転落していた。主力事業もそれぞれ前年から減収となっており、経営資源の集中と合理化が喫緊の課題だった。個人向けSIM事業を手放したことにより、今後は法人向けサービスに注力していくものとみられている。

業界再編の契機となるか

 MM総研の調査によると、今年3月末時点のMVNO回線契約数は前年比66%増の539万回線。順調に市場が拡大する一方で参入業者も相次ぎ、昨年末時点で170社がしのぎを削る。そのうちNTTコミュニケーションズやインターネットイニシアティブなど上位6社がシェアの6割強を握っている。日本通信も14年末時点では10%のシェアを誇る業界3位だったが、現在は2%程度にまでシェアを落としている。

 NTTドコモなどキャリアから回線を借りてビジネスを展開するMVNOはサービスによる差別化が難しく、過当な価格競争によって「事業単体でもうかっている企業はほとんどないのではないか」(大手MVNO幹部)という状況。そのためイオンや楽天のように会員制ビジネスの一環としてサービスを提供する一部の企業を除き、メリットを見いだせない企業の中には事業の売却を検討するところも現れ始めている。「事業者が収斂していくのは間違いない」(同)。今回の日本通信によるU-NEXTへの事業譲渡がMVNO業界再編の引き金となる可能性は高い。

 折しも8月初めに、公正取引委員会がMVNOの新規参入などを後押しする報告書を出しており、今秋にはLINEもMVNOに参入する。競争の促進によって生き残りを懸けた戦いは過熱しそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 北濱信哉)