全国紙でもっている私のコラムの上に、ユニクロを経営するファーストリテイリングの会長兼社長を務める柳井正氏のコラムがある。新聞紙上で柳井氏とは隣近所の関係にある。そのせいか柳井氏の発言には敏感に反応するようになった。

 最近、小学館から出された大前研一氏と柳井氏との対談集『この国を出よ』を読んだが、その発言の激しさに驚き、同時に沈む一方の日本経済に対する憂慮の念がいかに深いものかを行間から読み取ることができた。経済誌で書評に取り上げたが、紙面に限りがあって言い尽くせないところがあったので、このコラムでもう少し私の読書感想を書かせていただきたい。

 ご存じのように、急激な円高による為替レートという要素を排除すれば、GDPにおいて今年おそらく中国に追い越され、日本は世界2位の座を明け渡すことになるだろう。1968年に当時の西ドイツを抜き、経済力は世界2位という誇りをもつ日本にとって、その現実を受け入れるためには心理的ハードルを飛び越えなければならない。

 だから、中国が「いや、一人当たりGDPを見ると、中国はまだ日本の足元にも及ばない」と言うと、ほっとする表情を見せる日本人も多い。日本国内のメディアの論調を見ても同じだ。中国の一人当たりGDPの低さをしきりに指摘している。この指摘は事実で、中国国内でもよく見られる指摘だ。おそらくそう指摘されても、中国人はそれほど違和感を覚えていない。

 しかし、非常に面白い現象がある。中国と比較する時、やたらと一人当たりGDPを持ち出して日本の優位性を強調する日本だが、どうしたわけか、下記の事実には積極的に触れない。

 実は一人当たりGDPにおいては、日本は2006年にシンガポールに抜かれており、アジア一の座から転げ落ちた。そのことに対して日本人は「危機感が薄い」と大前氏が指摘し、「海外の優れたものに目を向けようとしません」と批判している。