英語メディアが伝える「JAPAN」なニュースをご紹介するこのコラム、今年最後は明るい話題にしたかったのですが、残念ながらこれというものが見つからず。閣議決定した来年度予算案を材料に、例によって「日本みたいにならないためには」という論調の記事ばかりが並んでいます。それでもギリシャのような暴動は起きていないわけですし、日本はいま自分を作り直そうとしているのだという前向きな指摘もありました。(gooニュース 加藤祐子)

日本は炭鉱のカナリアなのか

 米『ウォールストリート・ジャーナル』紙の記者ブログではジェイムズ・シムズという人が、「日本の超最悪な予算(Japan's Superbad Budget)」という記事で、来年度予算案は「ありたがくない最大級の表現 (superlative) にあふれている」と書き出しからグサリ。パッと見だけでも、一般会計が「過去最大」だったり、先進国の中で「最悪」の債務GDP比だったりするし、さらに予算案の中身を見ていくと「もっとひどい。菅直人首相の政治指導力失墜と優柔不断と、政府内部の足の引っ張り合いを如実に表している内容だ」と。

 その結果、「予算の賢い使い方を知らないことで悪名高い日本政府」は自分たちの欠点を根本的に改革することはせず、ただ収入を確保し、非現実的な政府公約を実現することだけに汲々としていると。「こんな予算はとうてい、維持できるものではない」、「春には日本各地で地方選が行われるため、戦略的な意味などないまま予算支出がはねあがっている」と批判が続きます。たとえば農家戸別所得補償は、日本の農業の大規模効率化を図るものではなく、ただ単に農家に現金を手渡すに過ぎないと。子ども手当は、受け手の収入レベルに関係なく増額されると。どちらも民主党の選挙公約だが、その一方で、健全財政実現の公約は守らなくても何の問題もないと思っているようだと。

 そしてこの記事のコメント欄では、アメリカの男性が「西側諸国にとって日本は、炭鉱のカナリアだ」と。いやはや……「日本みたいになりたくない」という反面教師どころか、生きた危険信号扱いされるカナリアですか。「それでも欧米がこのまま突き進むなら、何も言い訳はできない」とこの男性はやはり、日本を反面教師にしているわけですが。別の(英語圏の名前の)男性も「日本は20年前に、景気浮揚策としてインフラ支出を選んだ(河岸はぜんぶセメントで埋めてしまった)。なので私たちは第一に、これを教訓とすべきだ」と。

 日本は欧米のカナリアや反面教師や教訓となるために、借金まみれになっているわけではないと思うのですが。ハタからどう見えるかというと、こう見えているわけです。

 しかし彼らの懸念は単なる対岸の火事の高処の見物ではなく、日本が財政危機に陥ったりすれば、「世界中の市場を揺るがす」(英『フィナンシャル・タイムズ』紙)という危機感があるからこそ、です。

 フィナンシャル・タイムズ(FT)記事は、「日本の予算、債務懸念は払拭されず(Tokyo budget fails to ease debt concerns)」という見出しで、日本の国債新規発行高がまたしても税収を上回り、債務が対GDP比200%超になることを指摘し、税収不足の新予算案が「日本財政の苦悩を赤裸々に描き出している」と。もし日本が金融危機に陥れば、「世界中の市場を揺るがす」大変なことになるのだから、日本にはその最悪の事態を避けるという国際社会への責務がある。にもかかわらず、新年度予算案を見ると、日本政府にそれができるのだろうかとますます不安は高まったという論調です。

 アイスランド、ギリシャ、アイルランドと来て、やがて日本が同じようなことになったら、その余震はアイスランドやギリシャの比ではないんだと、日本の皆さん分かってますか?――というイライラ感が(たとえばこのFT記事はそうは直接書かないものも)色々な英語メディアの行間からにじみでています。

 ほかにも複数の英語メディアが日本の来年度予算案について書いていますが、中国国営・新華社通信の英語版によるこちらの端的なまとめが、問題を言い切っているようにも思います。「日本の財政は主要先進諸国の中で最悪な状態にある。菅首相はかつて、財政健全化を最優先すると約束したが、ふくれあがる予算案はこの約束とは裏腹な内容だと言われている」

 ロイター通信の金融ブロガーは「日本の財政大失敗に学ぶ」という見出しの記事を掲載(ところで28日正午現在、"Lesson’s from Japan’s fiscal disaster"となっていますが、「Lesson's」の「’」は間違いでしょうか?)。「金遣いが止まらない債務超過の国となると、日本に勝るところはなかなかない」というありがたい書き出しで、予算案の新規国債発行額が税収を2年連続で上回っている点を指摘。「けれども私にとっては、税収の半分以上がそっくりそのまま債務支払いのために出て行ってしまうことの方が、よほど怖いことだ」とも。

 つまり、年収以上の借金がかさんでいて、給料やボーナスが振り込まれると同時にほとんどが右から左へ借金返済のために出て行ってしまう家と同じですね。確かに、これは怖いです。

 年末ということもあってこれでつい連想するのは、落語や歌舞伎でおなじみの『文七元結』です(腕は良いが博打好きの左官・長兵衛がこさえた借金のため「どうにも年が越せません」てことで、孝行娘が自分で自分を吉原に売りに行くのだが……という話)。あれは落語だし歌舞伎だし、ゲラゲラ笑ってホロリと泣いて最後にはめでたしめでたしの人情噺だからいいですが、借金のカタに身ぐるみはがされてるから、カカアの着た切り雀のボロ着物をひんむいて着ないことには外にも出られない、なんて長兵衛と同じようなことを国(お上)にやられたんじゃあ、こちとらたまったもんじゃありやせんぜぃ。

――と、こうやってちょっとふざけてもみないことには気分が暗くなるばかりのご時世なので、だからこそ湿っぽい話を泣いて笑っての人情噺に仕立てた三遊亭圓朝とそれを大歓迎した日本の庶民は偉大で……あ、話がズレすぎですね。どうにも、現実の予算とか財政の話に戻りたくないらしく。

 ともあれ。フィリックス・サーモンというこの金融記者は、「日本にはこれといって大きな人種や政治上の分断がないだけに、この状況は特に残念だ。確かに政治のつばぜり合いはあるが、アメリカでのひどい罵り合いや不信感からすれば大したことはないし、ギリシャであったような暴動が日本で起きるとも思えない。にもかかわらず官僚たちは、打開策を見つけられない」と書いています。

 いい年をした私でさえ、安保闘争ですら直接の記憶がないのですから、市街地のあちこちで暴動が起きる日本というのはなかなかイメージできません(たとえば大阪の西成暴動がミナミやキタにまで広がる事態というのは、ちょっと想像しにくい)。あるいは逆に見るなら、現代の日本人において人種や政治思想の分断がアメリカほど激烈ではなく、政治抵抗の血中濃度もギリシャほど高くないからこそ、歴代の政権は大蔵官僚が作り上げた借金体質の仕組みをのんべんだらりと続けてこられたのかもしれません。

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