家電量販店業界首位のヤマダ電機は、9月14日までに同7位のベスト電器の発行済み株式の7.71%を取得し、第二位株主に躍り出た。

 一方、独立路線を貫きたいベスト電器は、9月20日、業界五位のビックカメラとの資本業務提携を発表した。これを受けてヤマダ電機は「提携を視野に入れることもありうる」(経営企画室)と、従前からの「純投資」という説明から態度を変え始めた。業界内の再編熱は一段と高まっている。

 だが、ヤマダ電機によるベスト電器買収が一気に進むことはないだろう。一部報道で、20%までベスト電器株式を取得する意向が伝えられたが、「浮動株が約20%で、そこまでは買い進められる可能性があるということ」(ヤマダ電機経営企画室)にすぎない。たとえTOBを仕掛けても、それを嫌う風潮の強い日本市場では成立の見込みは低い。

 さらに“40%ルール”という商慣習の壁がある。家電量販店業界では、商品による差別化が難しい。売れる商品は限られているからだ。そのため各社はM&Aで規模を追求し、同業他社との共同仕入れで仕入れコストを抑える戦略を採る。その共同仕入れをメーカー側が認める条件は、40%以上の株式保有だ。仮に「ヤマダ電機がベスト電器の浮動株の20%を取得しても、共同仕入れはできず、効果は限定的」(家電量販店幹部)なのだ。

 しかし、これは既成概念にとらわれた考え方だろう。「40%ルールは明文化されておらず、メーカー側が主張していること」(業界関係者)だからだ。

 25日にはディスカウントストアのキムラヤセレクトも傘下に収め、全国制覇に突き進むヤマダ電機。同社はこれまでも都市型と郊外型での市場の棲み分けや、地域別のシェア分け合いなどの業界ルールを次々と打ち破ってきた。ベスト電器に圧力をかけ、白旗を揚げるのを虎視眈々(たんたん)と待つ一方で、圧倒的なバイイングパワーを背景にさらに業界ルールを壊すことまで頭に入れているのだろう。ヤマダ電機が狙う本丸は、ベスト電器などの個々の企業というよりは、その先にある対メーカー交渉力のさらなる強化にほかならない。
(週刊ダイヤモンド編集部 片田江康男)

※週刊ダイヤモンド2007年10月6日号掲載分