専門店ビルを運営するパルコの行方が混沌としてきた。経営方針をめぐって筆頭株主の森トラストともめているにもかかわらず、突如イオンが発行済み株式の12.3%を有する大株主として登場、業務提携を提案してきたからだ。
イオンは“どちら側”の立場なのか。当初、森トラスト側にも、パルコ側にもこうした疑念が浮かんだはずだ。というのも、イオン側が挨拶に出向いたのは共に株式取得後。双方共に、「イオンが相手側の味方についたのではないか」と考えたのもうなずける。
結論として現時点でイオンは、どちらの側にもついていない。逆にいえば、これこそがイオンの握っている“切り札”といえる。
経緯から振り返って説明しよう。10年前、パルコはセゾングループの解体によって資金難に陥り、森トラストに要請して増資を引き受けてもらった。当初20%弱の出資比率だった森トラストは、その後33.2%まで買い増し、ついには50%弱に引き上げることを提案してきた。これを脅威に感じたパルコが、無断で日本政策投資銀行を引受先とする転換社債を発行する。政投銀の社債が普通株に転換されると、政投銀は18.73%を有する第2位の株主になると同時に、希薄化で森トラストの持ち株比率は33.2%から27.0%に下がってしまう。森トラストは、パルコの行動に激怒、対立が深まった。
一方、イオンは、これまで成長の軸だった郊外での大型ショッピングセンター事業が行き詰まり、都市部へのシフトを鮮明にしている。渋谷や池袋など都心の主要駅周辺にファッションビルを構えるパルコの事業には強く関心を持っていた。そこで、パルコと大株主がもめているのに乗じて、第三極の大株主として名乗りを上げた。
今後の交渉をめぐる3社それぞれの思惑は微妙だ。
パルコにとっては、株主1社の支配下に置かれるよりも、森トラストとイオンが牽制し合えば、まだ経営の自主性を保ちやすい。
森トラストは、パルコと対立姿勢を見せているものの、敵対的TOBまで仕掛けるつもりはない。日本の商慣習にはなじまず、風評被害のリスクも大きいからだ。そのため、3分の1を超える一歩手前で、パルコ株の取得を踏みとどまるなど膠着状態に陥っている。
両社共に避けたいのは、冒頭のようにイオンが相手側と組み、自社を支配する、もしくは排除するという図式だ。
今後、関係者間で落としどころを詰めていくことになるが、イオンがキャスティングボートを握っているのは確かだ。
とはいえ、仮にパルコがイオンとの関係を深めても、持ち分法適用の20%程度の出資がせいぜいで、「中途半端なシナジーしか発揮できない」という声が早くも流通業界から上がっている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 須賀彩子)