いまはつくらないことで、
いま必要なものをつくることを実現する

 2ヵ月分在庫があるということは、いま生産したものは、平均でこれから2ヵ月後に売れていることになる。いまから2ヵ月後に必要かもしれない製品を計画して、つくっている余裕はないはずである。ほとんどの電機機器の生産タッチタイム(本当の加工時間)は数分、数十分という単位で組み立ては完成する。数分、数十分でできる製品について2ヵ月も在庫を持っている意味はないはず。

 製品は、生産時間と輸送時間を加えた補充時間のリードタイムに売れる最大値だけ持っていればよい。そして、市場の売れ行きに合わせて、需要に連動して、製品をつくっていけばいい。

「いま必要なものだけつくる」ことは、「いまはいらないものをつくらない」ことで実現することになる。これが、世界で1000万人が読み、いまも色褪せないベストセラー『ザ・ゴール』で紹介された全体最適のマネジメントサイエンス、TOC(Theory Of Constraint:制約理論)の需要連動生産である。詳しくは、拙著『「よかれ」の思い込みが、会社をダメにする』(ダイヤモンド社)を参照していただきたい。

危機に陥った時、
人は偉大な発明者となる

 おそらく多くの企業は、先ほど述べたようなオペレーションをすでに少なからず実践していることだろう。ゴールドラット博士の『ザ・クリスタルボール』では、倉庫の天井の水道管が破裂して、在庫が水浸しとなるところから始まる。

 主人公は、倉庫で在庫を保管することが許されないなか、最少の在庫ながら、売上げを犠牲にしないようにオペレーションを回さざるを得ない状況に追い込まれる。そして、やむを得ず、偶然実践したこのことが目覚ましい収益をもたらす。ゴールドラット博士は、次のように語る。