「危機に陥った時、人は偉大な発明者となる。問題は、それを危機の時だけの例外として片づけてしまい、その偉大な発明の本質を理解せずに、元どおりのオペレーションに戻ってしまうことだ」

 主人公は、水道管の修理が終わり、在庫が確保できるようになると、在庫をいつもどおりか抱えるオペレーションに戻そうとする。しかし、ハタと気がつく。この収益効果を持続する方法があるのではないかと……。そして、目覚ましい収益効果と、自分が緊急時に行なったことの本質を考え抜き、通常のオペレーションにも取り込み、飛躍的成長を持続して全社にもたらすことになる。

 もしも、財務諸表に数ヵ月分の在庫があるなら、その期間を猶予期間と考えて、このオペレーションモードをなるべく早く立ち上げ、その後も継続できる体制を構築する。いま必要なもの以外はつくらないことで、滞留在庫は最少でありながら、高効率の見違えるほどの経営体質を手に入れることができることになる。

 このたびの大震災で海外の友人からも多くの連絡をいただいたが、みんな一様に驚いているのは、一致協力して危機を乗り越えようとする日本の「和」の底力だ。

 「危機に陥った時、人は偉大な発明者となる」のであれば、この「和」の本質を我々が考え抜き、危機の時だけでなく、普段からみんなが実践できるようにすることができれば、それが、復興への道を切り拓いていくのかもしれない。

岸良裕司 [ゴールドラット・コンサルティング・ディレクター兼日本代表]
1959年生まれ。日本TOC推進協議会理事。「三方良しの公共事業」は、ゴールドラット博士の絶賛を浴び、2007年4月に国策として正式に採用された。成果の数々は国際的に高い評価を得て、活動の舞台を日本のみならず世界中に広げている。著書に『全体最適の問題解決入門』『「よかれ」の思い込みが、会社をダメにする』(ダイヤモンド社)『三方良しの公共事業改革』『マネジメント改革の工程表』(中経出版)などがある。