岩本の咳払いが響き、そして言葉が続けられた。

(今回は3コンテナ出せるんだね)

「ええ、物は問題ありません。いつも通り大阪向けでよろしいですか?」

(そうだな。営業と打ち合わせするが、もしかすると1コンテナは九州へ回すかもしれない。決まったら連絡するよ)

「船のブッキングをしておきたいので、出来るだけ早めの指示をお願いします」

(わかった……。それから、ちょっと話があるんだが)

 幸一は、予感が当たったな、と思いつつ岩本の次の言葉を待った。

(君も知っての通り、メルサワの敷居という商品は、地方の中小工務店向けがメインなんだ。大手ハウスメーカーなどは規格品中心で、無垢材は使いたがらないからね)

「ええ、そうですね」

(マーケットが冷え込む中、その中小工務店も圧迫されていて、先行きはかなり厳しい……。そこで、我が社としては今回の出荷を最期に、メルサワの取り扱いを止めようと思う)

 幸一は唸ってしまった。いずれはそうならざるを得ないと思っていたが、まだ先のことだと希望的観測を自分に言い聞かせて考えないようにしていた。

「それでは、リムさんとの仕事は……」

(今回までということだ。丁度いい、リムさんと会うのなら、うまく話をしておいてくれ)

 とんだ貧乏くじだ。簡単に言ってくれるもんだな、幸一は胸の内で毒づいた。所詮社長なんてものは、いや、会社なんてものはこんなものか。

「わかりました」

 幸一は心を押し隠して答え、通話を切った。

 所詮自分も一介の嘱託社員に過ぎないのだからと、溜め息をひとつ吐き出してソファから立ち上がる。そこへ、広い吹き抜けのホテルエントランスにリムが現れた。ロビーに幸一が立っているのを認めると、彼は自分が待たせしまったと勘違いしたらしい。

「ソーリィ、ソーリィ」

 そう言いながら歩み寄ってくる。