ふたりは馴染みの海鮮レストランで食事をした。クアラトレンガヌ郊外の海岸に建つこの店もチャイニーズマレーシアンが経営する店で、基本は中華料理であるが、マレーシア独特の風味や隣国のタイ料理をアレンジしたような辛いメニューも含まれており、新鮮な魚や海老、蟹を美味しく食べさせてくれる。
南国の特徴で、この店も海に面した側に壁などはなく、木枠で雑に組まれたデッキの手摺が店の端を示しているに過ぎない。手摺の切れ目から、そのまま海岸へと続く砂浜へ出ることも出来る。
そんなオープンな店内だから当然クーラーなど効かせていないが、日没後の海から吹き寄せる風に撫でられて、実際の気温よりさらに涼しさを感じる。波の音さえ聞こえてきそうなデッキのテーブルに座り、好物である蟹のチリソース炒めを頬張れば、この上ない至福のひと時となるはずであった。
しかし、先ほど幸一が本社の意向を宣言したことで気まずい雰囲気となってしまい、今ではチリソースの辛さも感じられない。
「まあ仕方ないな、世の中は常に変化するものだよ。ましてや木材業界の日本マーケットなんて、微小な世界にすぎないからね」
リムが自嘲気味に口を開く。
「すまない。心当たりの同業者に案内しておくよ。ウチはLIM AND SONS SAWMILLから手を引きました、ってね。メルサワを欲しがるところはまだあるから」
するとリムは、ビールを口元へと運び、一息ついてから答えた。
「いや、実は俺も、メルサワは止めようかとずっと考えていたんだ」
「市場が悪かったから、それも仕方ないな。その分を何でカバーするつもりなんだい?」
「それを考えているところさ……。さあ、話はともかく料理を食べなよ。冷えちまうぞ」
リムに促されて幸一は蟹の脚を口に放り込み、ビールで流し込んた。そしてリムの顔を窺いながら再び口を開く。
「どうだろう、植林木を考えてみないか? ラバーウッド(ゴムの木)やアカシアマンギュームなんかどうだい。今ではパーム椰子で合板を作ろうとしている会社も出てきたじゃないか」
「植林木ねえ……」
リムの反応は薄い。
「日本では、自然環境保護への監視が厳しくなってきている。特に大手ハウスメーカーはマスコミの注目も集まるから、今後植林木の利用比率を上げると宣言している。植林木製品で安定供給を謳い文句に売り込めば、ビジネスチャンスが生まれると思うんだが」
「だが、ラバーウッドやアカシアなんて爪楊枝みたいに細い丸太じゃ、集成材にしなければ売れないだろう?」