木材は、丸太という丸いものをカットして四角にし、それからまた使用する寸法に切り刻んでいくのが当たり前、だから丸太の大きさ以上の製品は作れない。つまり、大から小を作る、きわめて効率が悪い資源なのだ。
集成材とは、そんな非効率な浪費を抑えようと考えられた商品で、本来棄てていた木材の切れ端を原料として接着剤でつなぎ合わせ、希望の巾、厚み、長さに作れるようにしたものである。
この方法だと、小から大を作ることになるので、資源効率、つまり丸太からの歩留り率も上昇する。
「しかし、大手ハウスメーカーが採用してくれたら定期的なオーダーが見込めるよ」
「集成材の生産ラインにはどれくらいの投資が必要か判っているのか? モルダーも増やさなきゃならんし、フィンガーカッターとコンポーサーのセット、それに油圧プレスまで揃えるとなれば、100万ドルは覚悟しなきゃならない」
リムが、必要な木工機械の名を指折り数えて口を尖らせる。
「フォレスト(森)から出てくる丸太を挽いて四角にし、乾燥させて出荷する。俺は、それ以上のことはやろうと思わないね」
やはりリムも華僑なのだ。もともと華僑というのは、その土地その土地で卓越した適応能力を活かすとともに、独自の閉鎖社会を築いてどこへでも根を張れるしたたかな人種だ。
1997年のアジア通貨危機でマレーシアも大きく揺さぶられてからは、華僑たちが海外へ資産や拠点を移したり、カナダやオーストラリアなどといった国々へ移住するケースも増えている。彼らは、まさにボーダーレスで生き抜いているのだ。
幸一はちょっと嫌味を言いたくなった。
「やはりあなたも短いスパンでしか考えないんですね。マレーシアの資源をそのまま喰い潰して儲ける。無くなったら、はい、さようなら、か」
言い過ぎたかなと後悔も湧いたが、リムは笑いながら応じた。
「ハハハ。いつもながら手厳しいねえ、コーイチは。さっきも言った通り、世界は常に変化しているのさ。短いスパンで考えなきゃついていけないよ、それに……」
リムは幸一から視線を逸らして、何も見えない真っ暗な海岸の方へ向けた。
「わたしは、日本向け輸出自体を止めようと考えているんだ」
「え、商売の半分以上は日本向けのはずだろ。メルサワのほかにも、ケンパスやクルインなどの硬木も輸出しているじゃないか。それを全部止めるのか?」
「ああ」
「それで、どうするんだい?」