試食したメンバーから厳しいコメントを下されて、不満が溜まっていたのだろう。感情を高ぶらせた菓子事業者の矛先が、いっせいに私に向かった。
「ごちゃごちゃ難しいこと言わんと、何をつくればいいか、はっきり示してくれるか! これじゃあつくりようがないが!」
(何をつくればいいか示せだと? これまで新商品をつくったことはないのか? 芸がないのはあんたたちだろ)……喉まで出かかった言葉をようやくこらえた。これを言ってはおしまいである。
地元で通用しても、全国には通用せん。安易に答えを求めてはいかん
このやりとりをじっと見ていた十河会長が、ついに口を開いた。
「今日、みんながつくってくれた試作品は、地元で通用しても、全国には通用せん。いいアイデアが浮かばないからといって、安易に答えを求めてはいかん。新商品を生み出す力を身につけるのが、このプロジェクトの目的や。いいもんができるまで、わしは何カ月でもかけるつもりや。ついてこれん人は、やめてもらってもかまわんからな!」
商工会には会社のような上下関係はない。厳しいことを言うと煙たがられるので、与えられた役割をほどほどにこなす人が多い。しかし、十河会長は違った。町の将来を真剣に考えていた。
十河会長の言葉に、会議室はシーンと静まり返った。果たして、本当に土産菓子はできるのだろうか……。誰もが途方に暮れていた。
(本連載は毎週月曜日に掲載します。次回は6月6日です)