隆嗣は素直な気持ちで李傑を褒めてやった。李傑が笑顔で応じつつ、卓上にある隆嗣のマルボロの箱から1本取り出して火を点ける。
「貧乏学生だった頃も、よく煙草を分けてもらったよな。君が吸っていた洋モクは、正直言って気に入らない味だったが、自由の香りがすると錯覚して楽しんだものさ」
「あれは、当時手に入る洋モクの中で一番安いカールトンだった。俺も貧乏だったからね」
まだ一口しか吸っていない煙草を灰皿に押し付けて、李傑が再び口を開いた。
「私は今、徐州市の経済貿易委員会を監督している。経済開発区への企業誘致が主な仕事なんだが、特に環境事業への取り組みに注力するよう北京から指導されていてね」
現実的な話題を持ち出してきた李傑に、隆嗣も正面から応えてやった。
「北京オリンピック前だから、環境問題にも真剣に取り組んでいると海外メディアへアピールするため、地方政府へもハッパをかけているという訳か」
「そういうことだ。そこで注目したのが、植林木の有効活用なんだ。徐州市の隣、山東省の臨沂市などには、ポプラの加工工場が多くて、日本からの投資で大きなLVL工場も稼動を始めている。
本来、鉄道交通の要衝である徐州の方が、材料集積でも有利だし、インフラについて言えば、田舎町の臨沂なんかよりはるかに整っている。それで、専門家である南京林業大学の高教授のもとへ話を聞きに行ったんだ。色々と教えてもらう中、合板工場やLVL工場を日本のバイヤーに紹介している、顔の広い人物がいるから紹介しようと言ってくれた……。名前を聞いて驚いたよ」
隆嗣は煙草を揉み消して答えた。
「わかった。君の点数稼ぎのためになるのなら、一度徐州を訪ねてみよう」
「たすかるよ」