(2008年2月、徐州)
火薬の炸裂する音が冬の凍った空気を次々に切り裂いていく。爆竹は魔除けであり、福を呼び込むために必要な儀式なのだ。
先ほどから幾度も繰り返し火をつけられて鳴り止まない騒音は、集った人々の歓声も呼び込んで、そこだけ熱気を帯びた空間となっていた。ほんの数週間前には春節を迎える喜びを表すために中国全土で鳴り響かせていた爆竹も、今日は限られたひとつの祝賀行事のために火を点けられている。
徐州市銅山県の工業団地。かつて視察した工場の外観は、新築のように磨き上げられ白い輝きを発していた。中には方々からかき集められた中古機械が防錆のためペンキで化粧直しをされ、綺麗にレイアウトされて血流を注がれるのを待っている。
「……中国の植林事業永続のために有意義で必要不可欠な、ポプラ植林木経済利用を目的とする『徐州隆栄木業有限公司』の設立を目にする栄誉に浴し、私も大変興奮しております。外資合弁企業の手本として中日の叡智を集結し、是非とも大いなる成果を上げて……」
招待客を代表して、徐州市人民政府の副市長が堅苦しい挨拶を続けている。
事務所前の広場には、共産党の顔役、人民政府の経済貿易委員会の幹部連中、それに地元銅山県の県長や近隣工場から招待した来賓客たちが、外套を着たままで前方に並べられた椅子に腰掛け、時間の経過速度を気にしつつ寒さに手を擦りながらも、表情だけは引き締めて話を聞いていた。
それを取り巻くように、会社への採用が決まった地元住民や南京林業大学が推薦してくれた技術者などの新会社の社員たちが、寒さに耐えながらも立ったままで、希望に顔を紅潮させて参列している。
旧正月が明けたばかりで春節の気分が覚めやらぬ2月下旬、設備と稼動初期に必要な原材料の目処がついた隆嗣は、開業式を挙行した。このような形式ばったことがあまり好きではない隆嗣だが、ここまで尽力してくれた役人や協力者のために、そして李傑の面子のためにも、これは避けて通れない行事だった。
株式会社イトウトレーディングと、徐州市政府系列の投資会社との合弁会社として正式に会社が登記されたのは、昨年の暮れだった。総投資額230万ドルで、出資比率は隆嗣と李傑が密約した通り、日側52パーセント、中側48パーセントである。