そこへ、岩本会長と父の真治が食堂へ入ってきた。

「賑やかでいいねえ」

 笑い声や陽気な歓声が絶えない宴会場を見回して、岩本が目を細める。

「愚息が慶子さんにまで面倒をかけてしまい、申し訳ありません」

 真治が、慶子へ笑顔を向ける。

「いいえ。参加できて、私もうれしいんです」

 はにかむ慶子に、岩本が悪戯な目を向けた。

「君たちが出会ったきっかけは、私のお蔭だということを忘れないでくれよ」

 若い従業員たちは少々のビールに酔ったのか、肩を組んで歌を唄い出す者たちも現れ、閉鎖された空間にエコーがかかって響き渡る。

「それで、工場の正式稼動はいつからになる予定なんだい?」

 岩本の問いに、幸一が答えた。

「従業員の訓練と設備の慣らし運転に、まず1ヶ月はかかるでしょう。4月からのフル稼働を目指しているのですが、急がせてもいい結果は出ませんから、石田さんにも気長にやっていただくようお願いしています」

「それじゃあ、幸一君も石田さんも、当分日本へは帰れないな。まあ、上海へはいつでも行けるか。それとも、上海から徐州へ通ってくるのかな?」

 幸一と慶子を見較べながら、岩本の冷やかしは続く。慶子は顔を赤くして、

「飲み物を取ってきます」と、その場を逃げ出した。温かい笑貌で慶子の背中を見送っている岩本へ、幸一が答えた。

「仮生産が始まった時点で一度日本へ戻ります。JASのフォースター大臣認定を進めておきませんと、日本への輸出が出来ませんから」

 フォースターとは、合板類のホルムアルデヒド発散に関するJAS(日本農林規格)の基準であり、5μg/m2以下が「四ッ星」となる。それ以上の発散量では建築基準法により内装材への使用が制限されてしまうのだ。商品がJASフォースターの試験・審査をクリアすると、建築基準法を統括する国土交通省へ、建材としての使用認証を申請することになる。

「そうか。フォースター認証は、日本向け輸出に絶対必要だからね」

「ええ、まずは大臣認証を取ることが急務です。先々は、構造材と併せて、工場自体でJAS認定を受けるつもりです」

 内装材と同様、構造へ使うLVL合板も、JASの厳しい認証を受けなければならない。