マクドナルドや吉野家の店舗の多くは駅前や商店街の目抜き通り、いわゆる一等地にあります。日高屋がマクドナルドや吉野家の近くに出店しようとすれば、当然家賃も高くなります。日高屋以前のラーメン店のほとんどは、目抜き通りから一本外れた路地や、駅からは少し遠い2等地、3等地にあるか、幹線道路沿いのロードサイド店が一般的でした。これは個人経営の店が多く、規模の利益が追求できないラーメン店は原価が高くなり、一等地への出店は困難だったからです。

 また、従来のラーメン店はラーメン1杯500円~700円程度の価格が主流で、マクドナルドや吉野家の価格帯よりも一段高くなっていました。そのままの価格帯では、低価格に慣れた消費者に受け入れてもらえなく、2社に太刀打ちできません。つまり、いくらマクドナルドや吉野家の近くに店を出したとしても、従来のラーメン店と同じ収益構造では、高い家賃と高価格がネックになって、利益を出すのはとても困難でしょう。

 このネックを解消するために行ったのが、回転率を上げる長時間営業と低価格を実現するための自社工場を使ったセントラルキッチン方式です。

 それまでのラーメン店の営業のピークは、お昼の2時間程度と夜は6時から9、10時までというのが一般的で、これではとても高い家賃を払うほどの売上は上がってきません。ところが日高屋の店の大多数が深夜3時、4時までやっていますし、新宿や池袋などでは24時間営業の店もたくさんあります。昼はラーメン中心の中華食堂、夜は中華食堂+居酒屋、深夜は仕事が終わった水商売の従業員の食事という時間別のニーズに応え、回転率を最大限に上げる戦略を取っています。

 低価格を実現するための食材の加工工場の設立も早くから行い、1986年に大宮工場を、さらに規模を大きくし、最新鋭となる行田工場を2005年に開設しています。この自社工場を使ったセントラルキッチン方式の導入で、コストを下げ低価格化を実現するとともに、味をどの店でも一定水準以上に保つことができるようになりました。

 日高屋は、外食店で戦略上もっとも重要な店舗立地を競合店に近接させるという逆転の発想と、長時間営業、セントラルキッチン方式の3つの要素をうまく組み合わせ、一等地への多店舗展開という過去のラーメン店がなしえなかったビジネスモデルを見事に成功させているのです。