マクドナルドや吉野家には、ファン、固定客がついています。でもいくらマクドナルドや吉野家が好きな人でも、朝昼晩の3食をすべてハンバーガーや牛丼で済ませる人はいないでしょう。朝にマクドナルドを食べたら、昼は牛丼、そして夜はビールでも飲みながらギョーザを食べて、締めはラーメンというのがありがちなパターンではないでしょうか。神田氏はそこに目をつけ、一見強力な競合相手となりそうなマクドナルドや吉野家の店舗の近くに日高屋を出店していきました。
また、マクドナルドや吉野家は出店の際に綿密に立地条件を自社で調査しています。駅の乗降客数や人の流れを見極め、家賃相場なども踏まえながら、店が採算に乗るかどうかを2社がすでに検討してくれています。自社で行えば人手もお金も時間もかかる立地調査はすでに2社がやってくれているというわけで、日高屋はそれらを節約しながら出店する場所を決められる、というメリットもありました。
本来強敵となるはずの競合他社でしかも業界の盟主の地位にある、できればまともな戦いは避けたい相手をうまく利用した見事な“コバンザメ戦略”です。
競争しながら協調する「コーペティション戦略」は
ゲーム理論から生まれた
さて、この日高屋の出店戦略を経営戦略的に分析してみます。分析に使うのは“コーペティション戦略”です。コーペティション(Co-opetition)戦略とは、2人のアメリカの経営学者、ブランデンバーガーとネイルバフが提唱したもので、Competition(競争)とCooperation(協調)をつなぎ合わせた造語です。競争と協調を使い分けながら、自社の戦略を組み立て、実行していく、ゲーム理論アプローチの一種です。
本来、競合する企業は自社にとって、利益を奪い合い、勝つか負けるかの戦いを繰り広げるライバル関係にあります。ところが一方で、規格競争が起こったり、新たな市場を拡大していく過程や地域間の集客競争の観点では、協調関係が成り立つこともあります。