バーガーやフレンチフライを手際よく用意するという面白味のない作業に、どれほどの注意が払われているのか。クロスビーや従業員がどれほど仕事に思い入れを持っているのか。こういったことは外から見ただけではわからない。しかし、パルズという企業がどのように経営されているかは垣間見ることができる。

 従業員は28店舗で約1020人、90%はパートタイムで、その40%は16~18歳だ。扱いにくい年頃の若者に対し、パルズは独自の選別システムを編み出した。優良従業員の態度や特性をもとにした60点満点の心理測定調査で、有能な従業員になれる可能性があるのは誰かを予測できる。候補者は、「ほとんどの場合、私は自分に満足している」「会ったばかりの人間を信頼できる」「自分の意見を主張することは、誰かにそれを受け入れてもらうための一つの方法だ」といった文章に賛成か否かを答える。

 採用後は、研修と習熟度テストが繰り返される。独り立ちまでに受ける研修は120時間に及ぶ。バーガーを焼く、フレンチフライを作る、シェイクを混ぜる、注文を取るといった作業の認定を受けるまでは独り立ちできない(たいてい8種類ほど認定をもらい、1つ2つの担当者になる)。

 配属後はすべての店舗で、シフトごとにコンピュータが毎日2~4人の従業員をランダムに選び、抜き打ちテストが行われる。不合格の場合には、再度挑戦する前に再訓練が行われる(従業員は毎月平均2、3種類の抜き打ちテストを受ける)。

 目標は、従業員全員が担当作業に習熟し、得意な作業で能力を常に最大限発揮することだ。その店舗の顧客数が対応できる上限(100%)に達しているときでさえ、営業時間のすべて(100%)で可能な限りの事業(100%)を遂行する。同社はこれを「トリプル100」と呼ぶ。

 アメリカンフットボールの名コーチ、ヴィンス・ロンバルディはこう言った。「完璧にやり遂げることは容易ではないが、完璧さを追い求めれば優れたものを手に入れることができる」。クロスビーの表現はこうだ。「我々は“修了証”よりも実績を重視します。ほとんどの企業は、従業員を訓練し、等級づけたところで止まってしまう。しかし、機械だって狂うように、人間もいつも同じ状態でいられるとは限りません。だから我々は教育を重視し、訓練を怠らず、従業員を指導するのです」。

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 パルズの従業員も、顧客と変わらぬ愛着をもっている。離職率は驚くほど低い。創業以来33年間で、自己都合で退社した店長は7人だけだ。副店長の年間離職率はわずか1.4%、競合を渡り歩き、業界から足を洗う人の絶えないファストフード業界ではめずらしい。接客はパートタイムや高校生のアルバイトが担うが、たいていの企業は彼らに手を焼く。しかし、ここでも離職率は業界平均の3分の1だ。
「『こんなに時間と資金を研修に注ぎ込んでおいて、従業員が辞めたらどうするんだ?』と聞かれることがあります。そこで私は、『時間と資金を注ぎ込まなければ、従業員は辞めないのかな?』と聞き返すのです」と、クロスビーは語る。

<第3回に続く>