いま、アルバイトの人手不足が深刻化している。そんななか、人材開発理論の専門家である中原淳氏(東京大学 准教授)と、インテリジェンスHITO総合研究所(テンプグループ)代表の渋谷和久氏が、アルバイト雇用に関する大規模な調査プロジェクトを立ち上げた。その成果をベースにした書籍『アルバイト・パート[採用・育成]入門』(ダイヤモンド社)も11月に刊行予定だという。
今回の座談会をお願いしたのは、「ハンバーガー大学」など独自の社内制度を早くから立ち上げ、店長やアルバイトの育成に力を入れてきた日本マクドナルドのみなさん。売上上位店である立川伊勢丹前店の齋藤周平店長と六本木ヒルズ店の西村裕美店長、そして同人事本部の日比谷勉氏にお集まりいただき、同社の驚くべき「人手不足対策」についてお話を伺った。アルバイトが店長をうっかり「先生」と呼んでしまうまでに充実した「育成の仕組み」とは?(撮影/宇佐見利明 構成/前田浩弥)
「店長の部屋」と
「バイトの休憩室」を同じ空間に
【中原淳(以下、中原)】マクドナルドでアルバイトとして働く人には、主婦や学生、フリーターなど、いろいろな属性の人がいますよね。お2人のお店では、どのような割合で所属しているんですか?
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授。東京大学大学院 学際情報学府(兼任)。東京大学教養学部 学際情報科学科(兼任)。大阪大学博士(人間科学)。
1975年北海道旭川生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、マサチューセッツ工科大学客員研究員等を経て、2006年より現職。
「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、リーダーシップ開発について研究している。専門は経営学習論。著書に、『会社の中はジレンマだらけ』(光文社新書)、『企業内人材育成入門』(ダイヤモンド社)など多数
【齋藤周平(以下、齋藤)】立川伊勢丹前店は「高校生3:大学生4:主婦2:フリーター1」くらいの割合です。
【西村裕美(以下、西村)】六本木ヒルズ店は高校生、大学生、主婦、フリーターの人数がそれぞれ同じくらいで、バランスがとれています。
【渋谷和久(以下、渋谷)】違う属性の人が一緒に働くという環境って、とても大変だと思うんです。たとえば主婦と高校生では価値観がまったく違う。そのなかで、仲間意識をつくるために工夫していることは何かありますか?
【齋藤】はい。立川伊勢丹前店では、事務所のレイアウトを大きく変えました。店長が仕事をする部屋と、アルバイトが休憩する部屋の仕切りを取っ払ってしまったんです。仕切りがあると、どうしても職場のなかに「店長が上、アルバイトが下」という階層ができてしまう。その感覚を取っ払って、「みんなが仲間だ」という空気をつくるようにしました。
【西村】私も、以前勤めていた店舗では同じ試みをしました。「チームビルディングのために、店長の部屋を設けない」というのはとても機能していて、アルバイト同士のコミュニケーションも、店長とアルバイトのコミュニケーションもうまくいっていたと感じます。