「どんな食事も、“絶対にするな”というものはない」
正しい食事を追求するなかで、『双子の遺伝子』等の著作を持つ世界的な双子研究の権威で、ロンドン大学キングス・カレッジ遺伝疫学教授、英国医科学アカデミーフェローも務めるティム・スペクター氏がたどり着いた意外な境地。だが、たとえファストフードを利用するにも「正しい食べ方」があるという。最新の研究成果を『ダイエットの科学』(白揚社)としてまとめたスペクター氏に、その方法を聞くインタビュー、最終回。(インタビュアー:大野和基)
規則正しい食事よりも、断続的な断食で減量できる?
―― 前回(中編)の最後に、自分の腸内マイクロバイオーム(微生物のコミュニティ)を知り、管理していくことの重要性を伺いましたが、食事に関して、何かアドバイスはありますか。
ロンドン大学キングス・カレッジ遺伝疫学教授、英国医科学アカデミーフェロー。双子研究の世界的な権威であり、近年はとくにマイクロバイオームを中心に研究を続けている。これまでに発表した論文数は800本以上、論文の被引用数は世界でもトップ1パーセントに入る。邦訳書に『双子の遺伝子』(ダイヤモンド社)、『99%は遺伝子でわかる』(大和書房)がある。(写真:大野和基)
スペクター 加工食品はだめですね。リアル・フードでないとだめです。炭水化物は、バランスが取れた食事をして、高繊維質の炭水化物であれば問題ありません。精製された炭水化物ではなく、胚芽米を混ぜたものがいい。炭水化物そのものには悪いところはないですが、微生物に栄養を与えるものを見つけないといけません。でも加工食品は保存料や多くの化学物質を含んでいるので避けなければなりません。それは非常に重要です。
また、これも神話のひとつですが、規則正しい食生活をしないといけないとよく言われます。血糖値の変化を避けるために規則正しく食べないといけない、というのはまったくの神話です。
私は、一晩中断食をすることをすすめています。時には朝食を取らないこともすすめます。西洋、特にイギリスでは絶対に朝食を食べ損なってはいけないと言われますが、それにはエビデンスがありません。朝食は1日のうちでベストな食事、唯一のおいしい食事と言われています。でもそれはイギリスで卵やベーコンを売るために言われているだけです。科学的な証拠に基づいているわけではありません。1日に取るべきエネルギー量を、2食でとる人は、同じエネルギー量を3食や4食で取る人に比べて減量できる、というのが科学的エビデンスに基づく新しい知恵です。
腸内微生物は回復するのに時間が必要であるかもしれません。十分な休憩時間があって、再生する休憩時間を与えたほうが、効果があるということです。断続的な断食が体にいいということがわかりました。これもまたほとんどの国での政府の政策に変更を加えました。これについては、国によってルールが違います。南欧ではほとんどの人は朝食を取りません。朝はエスプレッソを飲むだけです。巻きたばこはスペインやイタリアの朝食です。それから午後2時まで何も食べません。そして夜の10時くらいから翌日の午前2時まで長時間かけて食べます。
これが、南欧の人が北欧の人よりも健康である理由のひとつかもしれません。北欧の人は常に規則正しく食べています。南欧より寒いからかもしれません。日本にも同じことが言えるかもしれませんね。南と北の地域差があるということです。我々はメンタリティを変えて、医者が我々に体にいいことだと言っていることを考えるのをやめて、どういうエビデンスがあるのか考えはじめたほうがいい。現在無作為化、対照臨床試験が5つ実施されています。その試験では食事の回数を少なくして、食時間の間隔を長く取ると減量できることが証明されています。
この本の執筆のために、私は多くの実験を自分に対して実行しました。どんなものか知るために、6週間、完全ベジタリアンをやってみました。肉を食べないでいることはそれほど難しいことではありませんでした。逆に簡単だと思ったくらいですが、チーズをあきらめるのは本当に難しかった。だから6週間で完全ベジタリアンをあきらめました。続かなかったのです。私は本当にチーズが好きですから。ただし、チーズは高脂肪ですが、体にいいことが証明されています。特に伝統的なチーズはprobiotic(体によい働きをするバクテリア)なので、ヨーグルトのようなものです。アメリカン・チーズはだめです。伝統的なチーズがいいのです。
私は自分に実施した実験では断続的断食もやりました。それで簡単に減量できることもわかりました。だからもし減量したかったら、この断続的断食を週に2、3回やるのがいい。断食は普通の食事の4分の1で大丈夫です。次の日は食べたいものを食べる。そうすることで食べるものに多様性を持たせます。キャベツだけを食べればいいとか、食事制限をするのではなく、食べ物に多様性を持たせることです。
味噌汁を少しとって、にんじんとか他の野菜、果物を食べて1日を過ごし、翌日は好きなものを食べる。こうすれば心理的にはとても楽になりますから、あとはただ実行するだけです。
このように、自分の腸内微生物を助けることで、減量プロセスが始まるのです。でも私は、人が本当に重視すべきことは自分が食べるものの量だけではなく、質だと思います。