「企業家精神とは、個人であれ組織であれ、独特の特性をもつ何かである。気質ではない。実際のところ私は、いろいろな気質の人たちが、企業家的な挑戦を見事に成功させるのを見てきた」(ドラッカー名著集(5)『イノベーションと企業家精神』)
企業家精神というと、100人に1人が持つという感覚である。100人に1人の気質、100人に1人の才能としかねない。ドラッカーは、そこがそもそもの間違いだという。それは、気質でも才能でもない。
ただし、一つだけ企業家精神に向かない気質がある。確実性を旨とする気質である。それはそれで立派な気質だが、企業家には向かないという。
しかし、意思決定を行なうことができるならば、学習を通して、企業家として企業家的に行動することができるようになる。企業家精神とは、気質ではなく、行動であり、同時に姿勢だからである。
イノベーションは、才能とも関係がない。企業家精神の才能などはなく、方法論が必要なだけなのである。それが今、ようやく各所で開発中である。
ドラッカーは、企業家精神はインスピレーションとも、ほとんどあるいはまったく関係ないという。逆にそれは、厳しく、組織的な作業である。
企業家に天才的なひらめきがあるというのは、神話にすぎない。ドラッカー自身、60年以上にわたっていろいろな企業家と仕事をしてきた。ベンチャーを立ち上げた人もいれば、社内企業家もいた。どの人も働き者だったという。天才的なひらめきを当てにするような人は、ひらめきのように消えていったという。
イノベーションは、変化を利用することによって成功するのであって、変化をもたらそうとすることによって成功するのではない。
ということは、変化を当然のこととして受け止めることである。日本人にとって、諸行無常を旨とすることは、おなじみなのではないか。
「本人が自覚しているか否かにかかわらず、あらゆる仕事が原理にもとづく。企業家精神も原理にもとづく。企業家精神の原理とは、変化を当然のこととすることである」(『イノベーションと企業家精神』)