アイドル商売とは
いったいなんなのか

 それに対して須藤凜々花の結婚宣言だが、これはハッキリ言ってなにを伝えたかったのか、さっぱり分からない。また彼女の結婚宣言に対しては、賛否両論あるがタレントや文化人の論評はいずれも間違っている。その最たるものは、アイドル商売をキャバクラ商売にたとえる話だ。たしかにアイドル商売は疑似恋愛の要素がないわけではない。その意味ではキャバクラと似ている。しかし、アイドル商売=キャバクラ商売ではない。この点については、僕がプロデュースする女性向けのウェブメディア「ガールパワー・インサイト」の記事「AKB総選挙で結婚発表した須藤凜々花はなにが問題なのか?」で詳しく書いたが、簡単に言えば、AKB商法の正体はキャバクラというより、クラウドファンディングであるということだ。

「途上国に学校を作りたい」みたいな、誰かの夢を応援するのがクラウドファンディングだが、AKB商法やアイドル商法とは、「武道館でコンサートを開きたい」「オリコンチャートで1位をとりたい」という女の子たちの夢を応援してもらうという商売であり、その夢を共有してもらう商売である。その意味で、たんに自分の売上を伸ばすために客に高価なボトルを入れさせるキャバクラ商法とは本質的に違う。

 アイドルファンは、コンサートのチケット代をお布施と呼ぶ。なぜお布施なのか。お布施とは本来、僧侶の読経などに対する謝礼であるが、アイドルファンがチケット代をお布施と呼ぶのは、女の子たちがステージで歌ったり踊ったりしてくれることへの感謝の気持ちの表れだからだ。しかし、キャバクラで高価なシャンパンを開けて、キャバ嬢に対して「オレに感謝しろよ」と思う客はいても、喜ぶキャバ嬢に感謝する客はいない。だから、キャバクラで使う金をお布施と言う客はいない。アイドル商売とキャバクラは根本的に違うのだ。

 アイドル商売とは、つまり「グループのメンバー、運営側、ファンという夢を共有する仲間」によるコミュニティビジネスであり、須藤凜々花の結婚宣言は仲間に対する裏切りだったから、ファンも卒業メンバーも怒るのだ。「いまどき恋愛禁止とか無理ゲーだ」とか言ってAKB商法を批判する人もいるが、外野に指摘されなくてもファンだってそんなことは分かっている。分かったうえで、その「設定」の中で夢を共有している。

 かつてネットでは、モーニング娘。のメンバー(当時)の石川梨華が「ウンコするか、しないか」を巡って、3年以上にわたって論争が繰り広げられていた。人間だもの、ウンコするに決まっているが、そんな当たり前のことが分かったうえで、「ウンコするか、しないか」について熱く論戦する。それがアイドルコミュニティなのだ。

「アイドルに恋愛禁止を求めるのは憲法違反」などとバカなことを言う弁護士もいたが、「ゴジラなんか、生物学的にあり得ない」と学者が発言するようなもので、なにも分かっていない。あり得ない設定でも、その世界観の中で楽しむのがエンターテインメントであり、AKBの場合の恋愛禁止は「設定」なのだから、メンバーや運営がその設定を勝手に変えれば、ファンが怒るのは当然なのだ。

時間的なパースペクティブで
ものごとを考える

 須藤凜々花の結婚宣言は、週刊文春によるお泊まりデート報道が出る前のスキャンダルつぶしを狙った先制攻撃であることは明白だが、その点から言ってもいただけない。総選挙イベント前にスキャンダル報道が出ることは運営側も分かっていたはずで、たとえば前日の夜にでも須藤凜々花のエントリーを取り消し、同時に謝罪発言をさせるなど、ほかに方法はあったかと思う。それをやらなかった、イベントで結婚宣言させたということは、運営側が勝手に「設定」を変えた、つまり基本理念を変えたということ。これは組織にモラルハザードを起こすことであり、マイケル・サンデルも指摘するように、長期的には組織をダメにする。確かにAKBグループにはこれまでも恋愛スキャンダルがあったが、一応なんらかの処罰があった。つまり運営側は、勝手に設定も基本理念も変えていない。しかし今回は、変えてしまった。