今回で3回目を迎えた「城山三郎経済小説大賞」は、なんと2作が大賞に選ばれるという初の快挙となった。そのうちの一冊、『銭の弾もて秀吉を撃て』(指方恭一郎著)が刊行されるまでの道のりを、担当編集者の廣畑達也君に聞きました。ダイヤモンド社では珍しい歴史小説です。
「この作品を一番高く評価しているのは自分だ」
そう直感したので、担当に名乗りをあげました
――本書は城山三郎経済小説大賞受賞作ですが、担当することが決まったのはいつ?
廣畑 最終選考に残る作品が決まった後です。最終選考にはこの作品も含めて3本の作品が残っていたのですが、僕が一番惹かれたのがこの作品でした。応募当時のタイトルは、『海商―秀吉に挑んだ男』。歴史を扱ったものだと一目でわかるタイトルで、目を引きました。
――どんなところに惹かれました?
廣畑 唯一の「歴史」を扱った経済小説で、それだけでまず異彩を放っていました。経済の要素と歴史の要素を両立させる、という難しいことをやり遂げていることに驚きました。つまり、歴史的な背景をきっちりと踏まえながら、経済の要素も盛り込み、しかもエンターテインメントとしても成立しているんです。
また、主人公は決して一般的に名の知れた人物ではないのにもかかわらず、最後まで一気に読ませる筆力にも圧倒されました。小説としての完成度も高く、これだけ書ける方がまだデビューされていないということに驚きました。
――この作品はどんな内容ですか?
廣畑 戦国時代に生きた博多の豪商、島井宗室の一代記です。言わずもがなですが、戦国時代は「武」が圧倒的に力をもっていた時代。そんな時代にあって、武士ともしたたかに渡り合いながら、商人としての信念を貫いた島井宗室の物語です。
タイトルに「秀吉」とある通り、最後は宗室にとって恩義のある(そして愛する人がいる)朝鮮国への出兵を企てる秀吉との「遠距離戦」へ。もちろん「戦う」とはいっても宗室は商人なので、刀や銃を用いるわけではなく、商人としての知恵や銭の力を頼りになんとか被害を少なくしようと静かに秀吉に挑んでいく、そんな「歴史経済小説」です。
カバーの前ソデに入れたのは、そんな宗室の決意の言葉です。「われら商人は、矢玉の代わりに銭を撃つのだ。秀吉が武で攻めるなら、われら商人は商いで受けて立つ」。この作品で、一番好きな言葉です。
――たしかに、芯のしっかり通った作品でした。担当になったのは偶然?
廣畑 いいえ。最終選考に残る3作が決まったときに、3作それぞれの作者の方と連絡をとったりする「担当」を決めるタイミングがあったのですが、そのとき自分から手を挙げました。今となってはすごい思い込みですけど、この作品を一番高く評価しているのは僕だと本気で考えていました(笑)。