完成度が高まった第二回目の応募作も大賞取れず。
この時は残念会をしました。

――そうだったんですか。ところで第一回城山賞での評価は?

佐藤 選考委員の先生方からは、「荒っぽいけど魅力がある」という評価をいただき、「是非、また挑戦してもらいたい」という論評がありました。大賞は取れなかったけど、多くの方が評価してくれたようです。そこで翌年の第二回の城山賞も応募されました。

――その結果は?

佐藤 最終選考には残ったのですが、またしても残念ながら受賞に至りませんでした。2回目の応募作は、1回目の作品(『不易と流行』)を大幅に修正したもので、前回の選考で指摘された問題も踏まえてより完成度の高い作品でした。タイトルは、『連戦連敗』と変わり、今回はという思いはありましたが、残念な結果に終わりました。それだけ他にもレベルの高い作品があったということだったんです。賞としてはレベルの高い作品が集まるのはとても嬉しいことです。

――それはとても残念でしたね。

佐藤 それまでは深井さんとのお付き合いはさほど頻繁ではなかったのですが、この2回目の選考の後、「残念会をやりましょう」と会食して、はじめてゆっくりお話しをしました。

 深井さんはとても精力的な方で、このお食事のときも「次回も応募しますよ」と仰っていただきました。さらに、1回目の『不易と流行』も2回目の『連戦連敗』も写真フィルムの話だったんですが、さすがにデジタルの時代となって、もうテーマは古いので、違うテーマで作品をつくろうなどともお話しされていました。

――確かに『連戦連敗』は社内の選考委員の間でもとても評価が高かった。

佐藤 はい、事実、この『連戦連敗』は後に角川書店さんから単行本として出版されました。

 賞に応募する多くの人は、出版という形で自分の作品を世に出したいと思って応募されます。ですから深井さんのように賞は取れなかったけど出版できた人は、もう応募されないのかとも思ったのですが、深井さんはこの城山三郎経済小説大賞にとても愛着というか、思い入れを持ってくださっていたようです。

『連戦連敗』の他社での出版が決まった際に、深井さんから連絡があって、自分の小説が出版されるが、それでも賞に応募していいかと聞かれました。当然、新人賞でありますが、城山賞はプロ・アマ問わないことになっているので、その旨お伝えしました。