中国の暗部も描かれた小説ですが、
表面的な理解だけで両国の関係は深まらないと思います。
――他に苦労された点はありますか?
佐藤 ルビの振り方です。特に中国の人名や地名などは迷いました。
漢字で表記して、読み方はどうするか。結局、人名のルビには中国語の発音に近い音を表記しました。最近はこういう表記をよく見かけますよね。温家宝首相のことを「ウェン・チアパオ」とルビを振るじゃないですか。あのやり方で、深井さんにルビを振ってもらいました。地名その他は、日本語読みが広く知られているものは中国語の読みがなはつけないという方針にしました。
――非常に神経を使う作業ですね。この小説を深井さんはどう読んでもらいたいと思っておられるのでしょうか。
佐藤 深井さんは、中国の人には日本の経済小説を読んでほしいと言うそうです。それが今の日本の社会を知る大きな手がかりだからです。同じように日本人には、中国を舞台にした経済小説を読んでほしいという思いが強く、そういう意味でご本人も書かれたのだと思います。難しい評論ではなく、例えば中国出張へ出かける飛行機の中で楽しみながら読めて中国人・中国社会への理解が深まるような小説を書きたいとおっしゃっていました。
――この小説では中国の暗部についても書かれています。こういう記述から日本の読者が中国を嫌いになるのではないかという危惧を、中国と日本の橋渡しをしたい著者はどう考えたのでしょうか。
佐藤 多分、深井さんは、本当のことをお互いが知ることが大切だと思っておられるのではないでしょうか。表面的なきれいごとだけでお互いの理解は深まらないと。
――なるほど。
佐藤 中国に対する先入観や無意識の蔑視があると、中国との交流は果たせない。お互いの得意なことと苦手なことを補い合うことで、両者はとてもいい関係を築ける。これは著者が仕事で実感したことであり、それが小説を書く源になっているのではないでしょうか。
日本の農漁業が中国からの研修生によって支えられていることが、今回の震災でもクローズアップされましたが、そんなこともこの小説ではよく理解できるようになっています。
――編集者としてひとりの作家のデビューを見届けたわけですが、今後、深井さんはどういう作家になっていかれるのでしょうか?
佐藤 恐らく深井さんは二足の草鞋で銀行マンと小説家を両立させていくんじゃないでしょうか。これは私のまったくの推測です。小説家としての魅力を感じているからこそ、そう思います。選考委員の佐高信先生は、この小説を「『おもしろくてためになる』という経済小説の2大要素」を最も多く持っていると評してくださったのですが、まさにそういう作品を生み続けられる方だと思いますし、今後もそういう活動を期待したいですね。
インタビューは、いつの間にか「著者のことを担当編集者に聞く」になってしまいました。長年の編集者経験から著者のことを常に考えている姿勢が、こちらにも無意識に伝わってきたからだと思います。最初の出会いから出版までは4年以上。本当に、お疲れさまでした。
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