普通っぽく見せて、中身はすごいと蕎麦通を唸らせる巣鴨「菊谷」。連載2回目となる今回は、とげぬき地蔵通りに突如現れた人気店を紹介する。蕎麦の香りを「聞き」、味わいを「利き」、懐かしい下町風情のもてなしが滲みいるようだ。
新しいのにどこか懐かしい
100年続いてきたような店を目指したい
巣鴨地蔵通りは、別名をとげぬき地蔵通りといい、10年ほど前からおばあちゃんの原宿と呼ばれてきた。最近では「何が面白いのか」と物見客が多く、平日にも様々な年代層で賑わう。
巣鴨駅からとげぬき地蔵通りに入り、とげぬき地蔵(高岩寺)を参拝した後、名物のお菓子屋、朝獲れの野菜を並べる八百屋、一夜干しのある乾物屋などをひやかしながらのんびり歩いていくと、ちょうど人の賑わいが途切れるあたりに「菊谷」の看板が見える。
開業以来6年間、石神井公園で人気を取ってきた「菊谷」だが、この6月に巣鴨に移ってきた。テーラーを営んでいた実家を改築して、蕎麦屋を再開店したのだ。
都内近くに住む菊谷ファンは近くなったと大喜びしている。反対に移られたほうはがっかりだが、そうもしてられないようでわざわざ石神井公園から出かけてくる客も多いという。
外観のイメージは石神井公園にあった頃からさほど変わらない。店内は木を中心とした造作で、落ち着いた雰囲気だ。
亭主の菊谷修さんは、店のコンセプトをこう語る。
「流行の和風モダンや古民家風の造りはこの町にそぐわないし、自分の目指す蕎麦屋とは違う。普通っぽい、奇をてらわない店。新しいけれど昔からあったような店。50年、いえ、200年も続いてきたような趣のある店。そんな“新老舗”のようなものを目指せたら……」。
“普通だけど中身は凄い”、そんな蕎麦屋の核心を突くものを作り上げて行きたい――。その何気ない顔の奥に潜む、思いがけない刺激が、どうやら「菊谷」に客が集まる理由のようだ。