ちょんちょんと肴を摘んで酒を呑み
蕎麦が出てくるのを待つ楽しみ

 蕎麦屋では、酒を呑むことを蕎麦前※2を楽しむというが、その蕎麦前にはちょんちょんと摘む肴を用意してある。昔は板わさや焼き味噌や海苔が多かったが、今は多くの店でその店独自のものが用意されている。

巣鴨「菊谷」――“利き蕎麦”でちょんと摘む肴、蕎麦屋の本懐ここにありぬかづけ、きんぴら、わさび漬け、ふき味噌、鯖の燻製などが少しずつ盛られてくる。ちょんちょんと摘んで日本酒を呑む。極上の蕎麦屋酒になる。

「菊谷」のご膳に供されるわさび漬け、きんぴら、ふき味噌、鯖の燻製などは、どれもとっても酒にぴったりと合う。

 新店には料理修業を経た職人も加わった。お任せの蕎麦コースや鴨鍋コースもあり、大切な人を招いたときにオーダーしてみたい。

 菊谷さんは巣鴨での開店を機に、念願の殻剥き機を導入した。玄蕎麦から殻を剥いて蕎麦にしたかったという。

「剥きたての蕎麦をつなぐとまた蕎麦が変わるんです。これは新しい発見でした。」

 剥きたて、挽きたて、打ちたて、茹でたてとくれば、三たてを越えて「四たて蕎麦」ではないか。

巣鴨「菊谷」――“利き蕎麦”でちょんと摘む肴、蕎麦屋の本懐ここにあり貴重な秩父在来種を利き蕎麦の3枚目で選ぶ。最初は蕎麦だけで二摘み、次につゆに蕎麦尻をちょんと漬けて味わう。

 今年は自分が修行した秩父で畑を借りて、貴重な在来品種※3を育てるという。ついには蕎麦を畑から最終工程までワンストップで味わってもらうことにトライし始めた。

 まさに蕎麦屋の本懐を求めてひた走りに走る――。菊谷さんが言う、「新老舗」の輪郭が見えてきた。

「とげぬき地蔵から、ちょうど僕の店の手前50メートルくらいから人通りが少なくなる。この店まで人を寄せて、通りをもっと賑やかにしたい」

 やはり、自分が育てられたこの土地を愛していたことがわかったという。ここに店を開いてよかったと笑う。「とげぬき地蔵通りには美味しい店が沢山ある」――、そう言われるのが、この先の夢だそうだ。

※2 蕎麦前:江戸時代は蕎麦屋は客が少しまとまって入ってから、蕎麦を挽いていたようだ。できあがるまで肴を摘んで酒を呑んで待ったという。それが、江戸の粋といわれるようになり、蕎麦の前に酒を呑むのが習慣になった。蕎麦前=酒。
※3 在来品種:かつては地域で独自の蕎麦の種を守ってきた。今でも福井では10種類余の在来品種があり、蕎麦の実はやや小ぶりなのが特徴。常陸秋蕎麦や北海道のキタワセは交配の種で、害虫や風害に耐えられるよう品種改良されたもの。