残暑厳しい日々のなかで、少しばかり気が早いが、タイヤ業界では早くも冬物商戦が始まっている。今年、注目を集めているのは「冬といえばスタッドレスタイヤ」という常識を覆す、新しいジャンルのタイヤ、東洋ゴム工業の「CFt」(クロスファンクショナルタイヤ)だ。

 近年、東京や大阪などあまり雪の降らない大都市圏でも年に数回、数センチ程度の雪が降り積もる事態が増えている。昨冬は都心で十数年ぶりの大雪に突如見舞われたことは記憶に新しい。

東洋ゴム工業の「CFt」(クロスファンクショナルタイヤ)

 当然のことながら、降雪地域では冬場、スタッドレスタイヤやチェーン装着が必要だ。ところが「クルマに乗るのは送り迎えや買い物が中心」という都会の街乗りユーザーには、タイヤの冬装備は面倒なもの。「スタッドレスは高いし、付け替えても置き場がない」「ちょっとくらいの雪道なら、いつものタイヤで乗り切りたい」という人は多いだろう。

 こうしたニーズを汲み取ったのが今回のCFtだ。東洋ゴムでは街乗りユーザーをターゲットに「夏も冬もこれ1本」という、これまでありそうでなかった交換不要の新型タイヤを約3年かけ開発した。

 ノーマルタイヤの性能を維持しながら、スタッドレス性能をいかにバランスよく併せるかが開発の大きな課題だった。例えば、ノーマルタイヤは雨が降った路面でも滑らないよう、排水機能を持たせてあり、そのためタイヤ表面の溝は太くストレート。一方、スタッドレスは雪や氷を掴めるよう溝は細かく複雑な形状をしている。

 また、ノーマルは真夏の高速道路を走った場合など高温でも耐えられる固さが必要だが、逆にスタッドレスは冬場に冷えて固くなってしまうと雪や氷を掴めない。

 こうした二律背反の条件をクリアできたのは、タイヤ表面を縦半分にわけ、内側と外側でノーマルとスタッドレスの性能を分けたからだ。写真を見ていただくと、1本のタイヤで左右の溝のパターンがまったく違うことがわかるだろう。接地圧の高い内側にスタッドレス性能を、曲がる、止まるといったコーナリングを担う外側にノーマル性能を持たせてある。

 また、原料ゴムにカーボンやオイルなどを配合する割合も工夫を凝らした。いわば「タイヤの味付け」となるこの割合は同社が基礎研究で積み上げてきた賜物。夏の高温時には固いが冬の低温時には柔らかくなる配合を編み出したのだ。

 こうした技術を盛り込んだ結果、スタッドレス性能は大幅に向上。7cm程度の雪道であれば難なく走れるまでに仕上がった。

 今シーズンは初めて市場に投入するということもあって、トヨタ「ヴィッツ」やホンダ「フィット」などコンパクトカーに対応する1サイズ、販売店も約400店に絞るが、来シーズンからはサイズを増やし、販売店も全国に拡大する予定だ。

 気になる価格だが、「一般的なノーマルタイヤに比べ10%程度、店頭価格で数千円程度、上乗せされるが、冬装備が省かれるのを考えれば、街乗りユーザーには十二分にオトクなはずだ」と福富秀典トーヨータイヤ国内営業本部長は胸を張る。

 ただ、基本はノーマルタイヤのため、法律上、チェーン規制がかかった道路や凍結した路面では使えない。雪や運転に不慣れな都会のドライバーに果たして受け入れられるだろうか。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)