では頭の良さとは何か?

 僕は、今日の頭の良さとは、「メタに考える力」だと思う。メタ(抽象的)に考えるとは、物事を一歩上の次元から見ることである。

 例えば、問題を与えられたら、いきなり解決策を考えるのでなく、まずはその一歩上の問題自体について考えることを、考えはじめることである。

 あるいは、勉強を始める前に、科目の中身でなく、一歩上の次元である勉強の仕方について勉強することである。

 物事それ自体を見るまえに、その物事の上位概念を見つめることで、物事の姿・意味合いをくっきりと浮かびあがらせることができる。その結果、新しい選択肢が見えたり、その物事自体が実はどうでもよいものであることが明らかになる。

中国の危機を救った
メタ思考の天才がいた

 そんなメタ(抽象)思考の天才的人物が、100年前の中国にいた。名前を李鴻章という。

 そのころの中国は清という名前だ(1644-1912年に中国を支配した最後の統一王朝)。ドイツやフランスなどの先進国が、その武力を背景に、中国各地を浸食していた頃だった。

 あるとき、イギリスのヴィクトリア女王がいよいよ香港の割譲を清の皇帝に迫った。清にはイギリスと戦う余力はない。さて、どうするか? 李鴻章は考えた。

 彼はヴィクトリア女王が派遣した英国大使に向かってこう言った。

「中国には、久久(キュウキュウ)という言葉がある。“永遠”という意味だ。だが、同じキュウキュウという発音で“九九”も指す。そこで香港を、キュウキュウ(永遠に、と同様の言葉である99年間)貸しだそう」ーー。

 久久(永遠)といえば、ヴィクトリア女王の要望に応えているし、九九(99年)の貸し出しであれば、清の最高権力者である西太后のメンツも立つ。彼は中国と英国の要望を同時に満たすことに成功した。