多くの人を元気づけるドラマをつくりたかった

――原作をお読みになられて、どのような印象を持たれましたか。

 元気になれる物語だな、と思いました。これもあまり知られていないことかもしれませんが、松下幸之助さんも、若い頃はずいぶん苦労をなさっていたわけです。もちろん奥さんのむめのさんも、大変な思いをして過ごしておられた。

 原作を読ませていただくと、むめのさん、幸之助さんの人生に向かうバイタリティみたいなものが、すごく感じられましたね。これはきっと、多くの人を元気づけられると思いました。

 こういう時代ですから、原作が持っている、みんなを元気にできるメッセージで、閉塞感のある状況を活性化できるんじゃないかな、と思いました。

――むめのさんは、まさにスーパーウーマンだったんですよね。

 何でもできる人だったようですね。裁縫から料理から、まさに女性がやらないといけないことは何でもできた。礼儀にも大変厳しかった方のようです。こういうところも、むめのさんのキャラクターの重要な要素だと思いました。

 ですから、ドラマでは、裁縫指導や料理指導もしっかり入れることにしました。というのも、時代に合ったきちんとした作法が、むめの夫人を描くときにはとても大切だと感じたからです。むめのさんという人を表す、重要なところでしたので。

 所作も含め、包丁さばきや針さばきなどのシーンではとりわけ注意しました。監督も、こういうところには、ずいぶんこだわっていましたね。

――原作とドラマとでは、やはり少し違う印象を受けます。

 私はドラマの脚本と原作を同時に読み進めていったんですが、まずドラマのほうは、むめのさんが中心というよりは、夫婦の物語になっている、という印象が強いかもしれないですね。

 また、私が担当する前のプロデューサーが、原作者の高橋誠之助さんにインタビューさせていただいたときに、夫婦げんかについて尋ねていたようでして。実際に、執事として夫婦げんかをご覧になられていたわけですから。

 原作の中では、そういうところはあまり詳しくは語られていませんが、ドラマの中ではしっかり見せたい、という考えを持ったようです。等身大の人間としての幸之助夫妻、を見せたかったわけですから。

 結果的にドラマと小説は違う印象を受けられるかもしれませんが、どちらがいい、ということではないと思っています。どちらも面白さがあります。