すぐに常盤貴子さんに白羽の矢が
――原作者の高橋誠之助さんは、主演が常盤貴子さんとお聞きになって、「まさにイメージにぴったりだ」とおっしゃられたそうです。どうして、むめの夫人役に常盤貴子さんを、お選びになったのでしょうか。
原作の書籍にはありますが、むめの夫人の生前の写真を見ると、ふっくらとされていて、肝っ玉母さんみたいな人に見えるんですね。しかし、これは晩年に撮られたものですし、そうした雰囲気だけが、むめの夫人のすべてではありません。
ましてドラマでは、物語として幸之助さんと結婚する20代から、いろんな経験を積み上げていった50代くらいまでを演じてほしいと思っていました。それだけの幅の広い女性の姿を演じられるとなると、やはり選択肢は限られてきます。
しかも、むめのさんというキャラクターを考えると、芯の強さや母性を表現する必要があります。かわいらしさや女性的なチャームを持っている人。しかも世代的に合致できる人、ということで、すぐに常盤さんに白羽の矢が立ったようです。
実は常盤貴子さんの主演は、前のプロデューサーが、脚本を作る前から決めていたようです。常盤さんに直接、原作を読んでもらって、常盤さんに気に入っていただいて、すんなりと決まったようですね。
普段の常盤さんは、もともと関西のご出身ですし、関西弁でにこやかに話されるチャーミングな人なんです。お茶目な面もあって。私自身も、すごくぴったりだな、と思いました。
――夫の松下幸之助役は、筒井道隆さんが演じられます。
常盤さんが最初に決まって、では夫婦役の相方は、となると当然、同世代ということになりますから、幸之助さんを演じられる人で世代的にぴったりの人は、ということで、これもまた、すんなり筒井さんに決まったようです。
幸之助さんは写真で顔もよく知られている人ですし、何より“経営の神様”というカリスマだった人ですから、筒井さんもプレッシャーは相当おありだったようです。
ただ、クランクインして、筒井さんって幸之助さんに似ているな、と私は思いました。このキャスティングは、本当に当たりだったんじゃないかと感じました。
――むめの夫人の弟の井植歳男(のちの三洋電機創業者)にEXILEの松本利夫さんなど、本当にキャストは豪華な顔ぶれになっています。
EXILEの松本さんは、役者としてはNHKにお出いただいたことはなかったんですね。これがNHKドラマ初出演なんです。その意味では未知数でしたけど、拝見していて、なんともうまくハマったな、と思いました。
色の黒さも、もともと海の男だった井植歳男さんになんだか重なって。実直で誠実な雰囲気もよく出ています。予想以上にキャラクターが合ったと思いますね。
――プロデューサーとしては、どんなところに気をつけられていましたか。また、監督はどんな点を意識しておられたのでしょうか。
私自身はとにかく、役者さんに気持ちよく、気分よく過ごしてもらったり、演じてもらうということだけですね。そういう現場づくりや環境づくりをしようと。
監督は、芝居にこだわることを強く意識していたようです。夫婦の物語ですから、下手をすると小さな話になってしまいかねない危険もある。そうではなくて、もちろん夫婦の話には違いないんですが、そこからもっと世界が広がるようなドラマにしたい、と。
音楽も、つつましいというよりも、ゴージャスな感じになっています。エンターテインメントとして、小さくまとまらないものになったと思っています。