また、いったん処方した薬が保険の審査を通らず、次々と切られるようになると、本来、健康保険組合が支払ってくれるはずの保険給付分(たとえば70歳未満は7割)は病院や診療所の持ち出しになる。経営を圧迫された医療機関は、「患者の病気を治す」という本来の業務に支障をきたしかねない。

 健康保険でヒルドイドの美容目的使用を続けている人は、国の財政や他の患者のことなど考えたことはないのだろう。だが、その安易な行動が健康保険財政悪化の一因となり、自分以外の患者や医療機関にも影響を与えることを自覚してほしいと思う。

 第147回の本コラムでも紹介したように、ヘパリン類似物質が配合された市販薬も発売されている。美容目的で使いたい人は市販薬を町の薬局やドラッグストアなどで購入すればいい。

 それでも、どうしてもヒルドイドがいいなら、全額自費で処方してもらう方法もある。健康保険がきかないので自己負担するお金は高くなるが、美を追求する女性たちにとっては、ヒルドイドはそれだけ価値のあるものなのだろうから、お安いものではないだろうか。

ヒルドイドの保険外しが
その他の薬剤にも波及する?

 健保連は、将来的にはヘパリン類似物質などの保湿剤そのものの保険適用を外していくことを今回の政策提言に盛り込んでいる。

 美容目的での医薬品の使用が厳しく問われるのは当然だが、恐いのは医療上必要性の低い医薬品の保険外しの議論が進むことで、それが本当に必要な医療にまで及ぶことだ。

 診療報酬を決める厚生労働省の中央保険医療協議会審議会などでは、これまで何度もビタミン剤や湿布薬、うがい薬などを健康保険の適用から外そうという議論が持ち上がっている。今回のヒルドイド騒動が、その流れを加速させる可能性もある。

 だが、医療上、必要性が高いのか低いのかの線引きは難しく、一律に健康保険が使えなくなると、それを必要としている人の負担は増大してしまう。

 必要な医療を、必要な人が使えなくなるような行き過ぎた事態を招かないためには、国民も自らの身を正す必要がある。大きな病気をして本当に医療が必要になったときに、「あのとき、無駄遣いしなければ…」と後悔しないように、ふだんから健康保険は適正に利用することを心がけたい。

(フリーライター 早川幸子)