クリームソースで蕎麦を食べる「カレークリーム鴨せいろ」
蕎麦を引き立てるソースとのマッチングに度肝を抜かれた
「庵 浮雨」の蕎麦は、ブログや口コミを通じてすぐに蕎麦好きたちの間で話題になった。特に、クリームソースをベースにした「カレークリーム鴨せいろ」は度肝を抜くようなショックがあった。
「眠庵」で超一流の製粉技術を習得してきた熊谷さんが打つ蕎麦の美味さは本物だ。蕎麦が運ばれてきたときには、香りがふわりと顔を包むくらいの強さがある。
誰もが一瞬、その美味い蕎麦をクリームソースのつけ汁に入れるのを躊躇うが、ソースの中からカレーのスパイスの香りが立って、その誘惑に勝てずに蕎麦をつけ込む。
粉は篩(ふるい)にかけずにそのまま取り出す無篩い※1だから、麺体に細かなざらつきがあって、それがクリームソースによく絡む。
ソースは決して蕎麦よりでしゃばらない。ソースに閉じ込められた玉ねぎ、ベーコン、白ワイン、バターなどの甘みと塩味が渾然一体となって、絡み合っては蕎麦を引き立てようとする。一口でも味わえば、その初めての体験に、これまでの漬け汁の既成概念を捨てることになるだろう。
ここ最近でソースのつけ汁はさらに完成度を高め、味わいに深みを増したようだ。しかも、残ったソースで作ってくれるリゾットがまた絶品で、蕎麦を食べた後の満杯の胃の中にもするりと入ってしまい、余韻を楽しめるから不思議だ。
このつけ汁と歩調をあわせるように、熊谷さんは同じクリームソースをベースにした作品を作っていった。貴重な白レバがクリームソースに入った「肝せいろ」、「サフランクリームせいろ」、「花巻きクリームせいろ」。新しいアイデアが熊谷さんの中から次々と生まれてきた。
※1 無篩い:蕎麦粉は臼で挽かれて粉になるが、その粒子は細かい粉から粗い粉まで混ざって落ちてくる。蕎麦屋によっては篩で粉を一定の粗さ以下に揃えるが、これを篩を使わずに出来上がった粉そのままで蕎麦にまとめるのが無篩い。「庵浮雨」では意図的に粗めの粉が多くなるように挽くため、蕎麦の表面にざらつきができ、つゆが絡みやすく食感がよい。当然、蕎麦はつながりにくく、また、壊れやすい蕎麦になり、難易度も増す。